ドイツ在住の夢追い人・中山イチローの「人生なんとかなってきた」#15 修行終了
寿司職人の修行にあたって「10年目にしてようやくお客さんの前に立てる」という厳しいイメージを持って臨みましたが、フタを開けてみれば、初日からドイツのお客さんの前で寿司を巻かせてもらうという、想像を絶するスタートでした。
鈴木さんとYoutubeが師匠
その後もひたすら巻き続け、“実戦”で鍛えられました。スポーツ界でも「経験に勝る財産はなし」と言われますが、寿司を握ったこともない自分が修行初日からお客さんの前で寿司をつくり、提供するという経験をしたおかげで、よくも悪くも、いままで以上に“なんとかなる精神“が強くなったような気がします。とは言っても、1カ月の修行期間中に巻き寿司のエビの尻尾を取るのを忘れ、お客さんに「シッポ、ハイッテルヤナイカ!」と怒られること3度。修行中にはほかにも、なんとかならなかったことをたくさん経験しました。
オーナーの鈴木邦彦さんは退院後、僕にレシピ、仕入れ先、ドイツ人の好みなど、レストラン経営に必要な情報をすべて教えてくれました。当時でも飲食店経営のノウハウはネットで検索すれば出てはきましたが、海外(ドイツ)でのノウハウはどこを探しても見つけられなかったので、とても助かりました。その後、自分の店を開くときにメニューや価格は鈴木さんの店のものをそっくりそのまま使わせてもらいました。なんとかなりました。
1カ月の荒修行のおかげで、それなり(!?)の寿司を握れるようになりました。自分の店をオープンさせてからも、魚のおろし方や寿司でつかう玉子焼きの焼き方が分からないときなんかはネットで検索して学びました。Youtubeも僕にとっての師匠です。
「こんなにおいしいお寿司、食べたことない!」
自分の店を持ってからはドイツで評判のいい日本食レストランに行って、メニューや盛りつけ方なんかを参考にしたり、寿司職人の方と知り合うたびにアドバイスをもらったりして改良を続けた結果、ドイツの七大ワイン産地のひとつ、ラインラント・ファルツ州の優れたワイナリーやレストランだけが紹介されるグルメ本「Pfälzer Restaurantführer」(2年に1度発⾏)に2度連続で掲載されたり、レストランの評価⽐較サイト「Tripadvisor」に「こんなにおいしいお寿司は食べたことがない!」「ヨーロッパNo.1」などと書き込みされるまでになりました。いままで、どんな寿司食べてたんや! とツッコみたくなりますが、寿司を握ったことがなかった僕でも、たくさんの人に「おいしい」と言ってもらえる寿司が握れるようになりました。まさしく、なんとかなりました。
話は戻りまして、僕は1カ月の修行を無事に終えたあと、カイザースラウテルンに戻り、レストランの場所を提供してくれるホテルと賃貸契約を結んだあとには、自営業者としてドイツ滞在許可証を発行してもらうという作業が待っていました。さぁ、いよいよ準備が整ってきた! と思ったのですが、ここから店のオープンまでがなかなか険しい道のりでした。続きは次回に。
本来なら、今回をもってコラム終了の予定でしたが、10回目あたりで篠原編集長より5回延長の提案がありましたので、本コラムは残りあと5回となりました。
引き続き、お付き合いのほどよろしくお願い致します。