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連載:近畿大学アメフト部OB中山一郎の「行動あるのみ」

ドイツ在住の夢追い人・中山イチローの「人生なんとかなってきた」#16 ビザをくれ

アルカトラズホテルの前で、師匠(右)と。刑務所の雰囲気残ってるでしょ?(写真は本人提供)

1カ月の寿司職人修行を終えて、自宅のあるドイツ・カイザースラウテルンに戻りました。寿司はなんとか握れるようになったので、次はビザの申請です。僕に必要なビザは自営業ビザというもので、外国人局という役所から「あなたはドイツで働く価値(意味)がある!」と認められなければいけません。ビザの取得は簡単ではないと聞いてましたが、僕には20年来の友人で弁護士のアンドレアスという強い味方がいます。

「アルカトラズホテル」の家賃、高すぎるがな

ビザの申請には賃貸契約書が必要なので、レストランの場所を提供してくれるホテルと契約交渉をしなければなりません。元刑務所だったところを当時の雰囲気を残しながら改装したホテルで、その名も「アルカトラズホテル」。アンドレアスはミシャエルという弁護士と共同でこのホテルを経営していました。

友人価格の安い家賃で貸してくれるのかと思っていたら、「むしろ高いんちゃう?」と感じるぐらいの家賃を提示してきました。「値下げしてくれ!」とお願いしても「なぜ、値下げしてほしいんだ? 理由は? 根拠は?」と返されます。いつも冗談ばっかり言ってるアンドレアスも、このときばかりはシベリアンハスキー以上に鋭い目をしてました。

日本食レストランのオーナーさん数人に契約書を見せてみたら、みんなが口をそろえて「高い!」。すぐアンドレアスに「ドイツで長年日本食レストランをやってる人たち全員が『この家賃は高い!』って言うてるぞ!」と言いました。すると、ようやくこちらの要求を少し飲んでくれるようになりました。幼いころからディベートで鍛えられたドイツ人を負かすには「値下げしてほしい!」だけではなく、理由、根拠をそろえなければならないことと、契約社会にはこれまでの友人関係も情けも通用しないことを、身をもって知りました。

書類はそろいました。ホテルの二人のオーナーはともに弁護士。その上、二人とも外国人局のお偉いさんと仲よし。「ビザが出るのは間違いないやろ〜!」と思ってました。するとある日、ミシャエルから「犯罪経歴証明書(犯罪経歴の有無を証明する公文書)」やら「納税証明書(きちんと納税しているかどうかを証明する公文書)」が必要という連絡があり、「なんやその証明書?」と思って調べてみると、ドイツにいながら日本からそういう書類を取り寄せるには8週間もかかることが判明! もう、この時点でドイツに移住してから5カ月も経っていて、ビザ取得にこれ以上の時間をかけられないと判断して、これらの証明書をかき集めるために日本に一時帰国することにしました。

アンドレアスとミシャエルには何度も書類の漏れがないように確認し、必要な書類をすべてそろえてドイツに戻りました。日本でかき集めた書類すべてを外国人局に提出し、首を長くしてビザが発行されるのを待ってたら、外国人局から「調理師免許を提出して下さい」と連絡がありました。

妻の大学時代の成績表まで提出

持ってへん! アンドレアスに相談したら「何でもいいから代わりになるもの出せ! そうしないとビザが発行されない! ダメもとでいいから何でも出せ!」と言われました。目の前が真っ暗になりました。

妻が大学時代に管理栄養士の資格を取っていたので、妻の大学のときの成績表と管理栄養士国家試験合格証書を提出しました。

師匠の鈴木邦彦さんに事情を話すと「ビザは難しいだろうね。でも、ここまで十分頑張ったよ。いままでの努力は絶対にムダにならないよ。」と諭されました。
本気で日本帰国を覚悟しました。

雲行きがだいぶ怪しくなってきました。続きは次回に。

近畿大学アメフト部OB中山一郎の「行動あるのみ」

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