ラグビー

連載:私の4years.

走りこみと戦術理解、そして涙のジャージ授与式 元慶應ラグビー部・和田拓2

大学1年生のときのジュニア選手権での和田さん(中央、写真はすべて本人提供)

連載「私の4years.」の8シリーズ目は、今シーズンから慶應義塾體育會蹴球(ラグビー)部のBK(バックス)コーチとして後輩の指導にあたる和田拓(たく)さん(31)です。國學院久我山高(東京)から慶應に進学。卒業後はキヤノンイーグルスに進み、主将としてプレーしていました。そんな和田さんが学生時代を振り返る5回の連載の2回目は、大学1年生で思い知らされた慶應ラグビーの奥深さについてです。

高校ジャパンの遠征で知った世界の壁 元慶應ラグビー部・和田拓1

慶應での日々は楽しいような怖いような

大学に入学すると、すべての環境が一変したように感じました。関取かと思うほど大きなキャプテンに、テレビでしか見たことのなかったスター選手たち。驚きはグラウンドだけにとどまりません。悠々とブランド物のバッグで練習に現れる先輩や、ランチタイムになると行列ができる昔ながらの人気のパスタ屋さん。そして、そこに並ぶオシャレな学生たち。スポーツ男子しかいなかった高校の教室から、まばゆい世界へ解き放たれたようで、入学当初は楽しいような、怖いような、そんな感覚でした。

本格的に練習が始まってからは、一心不乱に楕円(だえん)球を追いかけました。私たちの入部と同じタイミングで就任した林雅人監督は、「相手に走り勝つ」というポリシーのもと、走りこみと戦術理解に多くの時間を費やす指導者でした。ラグビーのあらゆる側面を数値化して分析し、「最後は気持ちが一番大事だ」と選手を送り出す。それまでやみくもにプレーするだけだった私にとっては、そのきめ細かさが衝撃的で、とくに戦術練習が楽しくて仕方ありませんでした。

林監督は全力で取り組むことの重要性を常に口にしていました。望んだ未来をつくるために「いま」を100%で努力すること。仲間と協力することで、一人ではできないような大きな力を得られるということ。どんなにいい試合をしても、一番大切なのは次の試合「Next One」であるべきだということ。ラグビー以外にも通じる言葉の数々は、いまも心に残っています。

和田さん(中央)が入部した年に、林監督(右)も慶應にやってきた

私が幸運だったのは、一緒に入部した43人の同期や学部の同級生たちにも恵まれたということです。ああだこうだ言いながら食べたごはんや、授業で一緒だった友だちとの勉強は、初めて寮生活を送る私にとってホッと息抜きのできる大切な時間でした。

メンバーに選ばれても選ばれなくても、涙

1年生だった当時、私と同じポジションでレギュラーだった小田龍司さんは、パス・ラン・キックすべての能力を兼ね備えたあこがれの4年生でした。とくに柔らかいタッチから放たれるゴールキックは実に正確で、同じくゴールキッカーを務めていた私にとって身近で大きなお手本でした。ほかにも大学ラグビー界の顔とも言える選手たちがたくさん所属していて、春シーズンの途中からBチームで練習していた私にとって、この上なく素晴らしい環境でした。

充実の春シーズンを経て長い夏合宿を終えると、いよいよ公式戦の開幕です。シーズンが深まり、空気が冷たくなるにつれて練習の強度が高くなり、上級生の眼差しが鋭くなっていくと、私も一戦の重みをひしひしと感じるようになりました。

公式戦の前日に「ジャージ授与式」があり、ゲームに出る選手たちが全部員の前でひとことずつ決意を述べます。そのときはメンバーに選ばれなかった部員たちまでもが涙を流していました。メンバーに選ばれた喜びや覚悟、選ばれなかった悔しさなど、さまざまな感情がその空間にあったのだと思います。19歳の私はその真剣で尊い時間を通して、伝統とはこのように受け継がれていくのだと感じました。

「努力は必ず報われる」と知った

ほかの大学の選手たちと比べると体が小さい慶應は、低く激しいタックルと豊富な運動量を武器に立ち向かわなければなりません。私は、主にBチームの選手たちが出場する「ジュニア選手権」のメンバーに選ばれる機会が多くありました。シーズンを通して印象に残る試合はいくつもありましたが、その中でも一番の思い出となっているのは、ジュニア選手権の最終戦です。法政との一戦は、負ければ2部降格という重要な試合でした。

空が高く、晴れた冬の日にあったその試合は、いままでの練習の積み重ねが見事に発揮された素晴らしい内容で、慶應が勝利をつかみました。シーズン途中の勇敢なタックルで負ったけがから復帰した稲葉直さんのトライや、誰よりもパスの練習をしていた皆良田勝さんとの連携からチームのトライが生まれるなど、いまでもその瞬間の高揚感と達成感を覚えています。不思議といつも情熱を持って取り組んでいた選手の方にボールが転がることも多く、「努力は必ず報われる」と思わされた試合でした。

チームは勢いに乗り、Aチームは大学選手権で準優勝。私が公式戦に出場したのは1試合のみでしたが、先輩方から本当に多くのものを学んだ大学最初のシーズンでした。

「次は自分が、レギュラーになって必ず優勝する」

そんな決意を胸に迎えた2年目のシーズンでしたが、私が思い描いていた通りにはなりませんでした。

初の早慶戦で大失敗、すべてをラグビーに捧げた 元慶應ラグビー部・和田拓3

私の4years.

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