ラクロス

連載:いけ!! 理系アスリート

ラクロスでも論理的に体系立てて成長してきた 東大工学部・鍛冶維吹(下)

ラストイヤーは声を張ってチームを盛り上げることにも意識を向けた(すべて撮影・松永早弥香)

連載「いけ!! 理系アスリート」の第22弾は、東京大学工学部4年生でラクロス部男子の鍛冶維吹(かじ・いぶき、駒場東邦)です。東大初の日本一を目指してきた今シーズン、鍛冶はディフェンスリーダーとして鉄壁の守りを支えてきました。2回の連載の後編は学生ラストゲームを終えたいま思うことについてです。

理系生が自主練を重ねて「フィジカル番長」へ 東大工学部・鍛冶維吹(上)

リーグ戦で苦しみ粘るうち、心が鍛えられた

ラストイヤーを迎えるにあたり、鍛冶は盛り上げ役を買って出た。「負けてるときに気持ちが沈んでしまったら、勝てるものも勝てない。そんなのはみんな分かってるんです。でもチームの中に『頑張ろうぜ! 』って言う人は多くなかった。だったら自分がやろうと思ったんです」。普段の練習から声を張り、みんなをもり立ててきた。4年生になって伸び伸びプレーができるようになったことで、自然と周りに目を向けられるようになったという。

今シーズンのリーグ戦を振り返ると、苦しい展開が多かった。初戦の中央大戦は5-9で敗れ、武蔵大戦でもリードされた展開から何とか7-6と逆転勝ち。次の立教大戦も逆転で7-4と勝った。日本一を目指してリーグ戦に臨んだはずなのに、FINAL4進出どころか2部との入れ替え戦もあり得るかもしれない。そんな思いが鍛冶にはあった。しかし、粘り勝ちを重ねる中で次第にメンタル面が鍛えられ、「自分たちなら取り返せる」という自信が強まってきたという。

東大は1部Bグループを中大に続く2位で勝ち抜き、関東のFINAL4に進出。準決勝の相手は慶應義塾大だった。東大は固い守りで流れを譲らず、4-3で決勝に駒を進めた。決勝の早稲田大戦は前年のリベンジをかけた一戦だったが、早稲田の猛攻に屈し、3-9の完敗だった。

鍛冶は試合中、G(ゴーリー)の三木理太郎(3年、神奈川・聖光学院)に声をかけては、「どこまでなら止められるか」「いまのシュートは打たせてしまって大丈夫なのか」と確認していた。早稲田の戦術を研究して決戦を迎えたが、早稲田は東大戦で攻め方を変えてきた。そのため試合中に何度も修正を重ね、早稲田の攻めを封じにかかった。鍛冶のディフェンスについて三木は「僕が止めやすい守り方をしてくれるのでやりやすいです」と語る。

早稲田戦では岡田康平(0番)を止めるのが鍛冶の役割だったが、相手の方が上手だった

しかし第4クオーター(Q)終盤に鍛冶は交代となった。「追っかけないといけない展開で体力が必要だったのに、僕は疲れ果ててプレーできる状態じゃなかった。本当はすごく(試合に)出たかったけど、チームのためにそうした方がいいんだろうなと思いました」。1対1に勝つことを意識して戦ってきたが、早稲田戦では思うようなディフェンスができなかった。「頑張ってきたつもりだけど、上には上がいる。完敗したというところが大きくて、やりきったっていう気持ちではないです」。顔に悔しさがにじみ出た。

ラクロスにいったんピリオド、大学院で理系を究める

鍛冶はこの決勝で、ラクロッサーとしての歩みにいったんピリオドを打った。工学部システム創成学科で学ぶ鍛冶は、来春から大学院に進む。研究テーマは流体運動の高精度解析。連続した物体である流体をどのようにコンピュータ上で扱うか、どうしたらより高い精度で計算できるか、などについて研究している。

「理系を究めていくとこういうことになるんだろうな、っていうのをちょっとずつ体感してるところです。もともと数学とか物理が好きなんですけど、こうした研究ってネットで調べても答えが出てこないところにたどり着くんですよ。まだ理解が追いついてないこともあるんですけど、そんなのが楽しいなと思ってます」

これまでは部活を理由に勉強はこなすだけになっていたところがあるそうだが、これからは国内最高峰の教育機関で理系の神髄を追い求める。

初めてのめり込めるものに出会えた

理系の学びがラクロスに生きた経験はあるのだろうか? 彼はしばらく考え、こう答えた。

「自分はすごい物事を論理的に考えるタイプなんですけど、どうしていまうまくいったのかってまず考えて、そこから、普段こうしてるからそれがつながってるんだろうな、ってひもづけてました。そういうことをノートに書いては、体系立てて継続してきました。最初はコーチにやらされてただけだったけど、途中でその効果に気づいてからは、自分でやるようになりました。ここは伸びた、ここは伸びてない、と向き合えたことが自分の成長につながったのかな」

鍛冶(左から2人目)はDFリーダーとして東大の守りを支えてきた。その姿は後輩に受け継がれていく

大学院生になってからも、コーチとしてラクロスに携わることはできる。まだ気持ちは固まってはいないが、自分が指導した選手が日本一を目指すまでに力をつけてくれたら楽しいだろうなという思いはある。「東大ラクロス部はすごく強くて、みんな一生懸命で、やったらやった分だけ絶対うまくなるという環境がそろってました。ラクロスも心から楽しいと思えたんです。人生で初めて、こんなにのめり込めるものに出会えました」

やりきった気持ちはない、と鍛冶は言った。それでもラクロスにのめり込んだ4年間は、のちのち誇らしい宝物となるに違いない。

箱根駅伝にあこがれ、都市計画に夢膨らませた 筑波大理工学群・猿橋拓己(上)

いけ!! 理系アスリート

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