樽本監督は元「日本最高記録」保持者 杜の都初出場の兵庫大で走ってきました!
「M高史の走ってみました」です。兵庫大学女子駅伝部を取材してきました。昨年の関西学生対校女子駅伝で7位。シード権を持つ大学を除くと3位に入り、創部10年目でついに念願の全日本大学女子駅伝(杜の都駅伝)出場を果たしたチームです!
いま在籍する選手は全員、兵庫県出身で自宅通い。全国大会に出場するレベルのチームとしては、とても珍しいケースです。いったい、どんなチームなのでしょうか?
ワコール出身の樽本監督
兵庫大は兵庫県加古川市にあります。以前は兵庫女子短期大学という名称でしたが、1995年に四年制大学として兵庫大となりました(現在も保育科は短大として残る)。栄養、看護、福祉、幼児教育、健康、現代ビジネスなどについて学べます。
女子駅伝部を指導しているのが樽本(旧姓・福山)つぐみ監督(51)。10kmロードの元日本最高記録保持者です!(注:1991年の神戸女子ロードでの32分12秒。ロード種目のため「日本最高記録」という表記に)
樽本監督は県立加古川西高校から東京女子体育大に進み、実業団のワコールで活躍されました。「ガンガン練習しているか、けがをしているか、のどちらかでしたね(笑)」と、ワコールでの4年間の競技生活を振り返ります。そして91年に10kmロードで当時の日本最高記録を樹立。競技引退後は兵庫大の健康科学部で教壇に立つことになりました。
兵庫大ならではの強化スタイル
その後、結婚、出産を経験。育児をしながら大学の仕事に復帰と多忙な日々を過ごされてきたところ、2010年に兵庫大に女子駅伝部を創部することになり、樽本さんが監督として指導にあたることになりました。
すでに書きましたが、現在の選手は全員、兵庫県出身。駅伝部の寮はなく、全員自宅から通っています。(注:マネージャーさんは島根県出身のため下宿しています)
朝練習は7時30分から。授業がある時期の夕食は学校で食べるそうです。管理栄養士の方が考えたメニューということで、栄養のバランスもバッチリ!
「授業が終わってから集まって、練習をして、帰宅してから夕食となるとどうしても遅くなってしまう選手がいるので、助かってます。練習後すぐに栄養補給できることもあってか、けがも減ってきました」と樽本監督。
また「せっかく大学に栄養や看護の学科があるので、連携していきたいですね」とも。栄養について学んでいる選手もいるので、学校で合宿をするときは朝、昼、夕の食事メニューを考えることもあるそうです。
スポーツシーンでの栄養に関して学んでいる選手によると「実際にスポーツドリンクを作ることもあります。水、蜂蜜、レモン、塩なんかを加えて、味の変化や濃度の違いも比べるんです」と教えてくれました。オリジナルのスポーツドリンク作り、なんだか楽しく給水できそうですね(笑)。
創部10年目で念願の杜の都初出場
「(出場の)前年に杜の都を逃したのが悔しかったですね!」と樽本監督。いままで行きたいという「あこがれ」だったのが「目標」に変わったそうです。
樽本監督にも家庭があり、長期間は家を空けられないということで、合宿は3泊4日といった短期間。「ほかの大学のように長く合宿に行けないのですが、短期間ということで『ここに集中』と、いい雰囲気でできました」
過去最高の練習が積めた昨年の夏合宿。チームも「いける雰囲気」に変化していったそうです。迎えた杜の都の予選となる関西学生対校女子駅伝では「1区で粘り、流れに乗れました」と樽本監督。駅伝の鉄則ともいえる序盤からの好位置キープに成功し、全日本行きを決めました。初出場となった杜の都では21位でした。
全日本大学女子駅伝初出場を果たし、次の目標は年末の富士山女子駅伝でしたが、こちらはチームとしては出られませんでした。
「全日本に出られた分、富士山に出られなかったのは悔しかったですね」。その富士山女子駅伝では樽本監督が全日本大学選抜の監督を務めることになりました。
「選抜チームはそれぞれユニフォームが違います。でも、何かみんなでそろえたいなと思いました。手袋? Tシャツ? ん〜、けどお金がない(笑)。そこで、女の子だし、おそろいのハンドクリームをプレゼントしたんです!」と、女性監督ならではの気配り。女子選手のハートをつかむきめ細やかさです。選手のみなさんも喜んでくれたのではないでしょうか!
昨年末の富士山女子駅伝で、全日本大学選抜は3位に食い込みました! 兵庫大からは4回生の大東優奈選手が出場し、アンカーを務めました。
1周1560mの寺田池で練習
もちろん、練習にも参加させていただきました。キャンパスにグラウンドはないため、もっぱら大学の裏手にある寺田池という溜(た)め池の周りで練習しているそうです。
1周1560m。ペース走のときは、1kmの往復をするそうです。照明がないので、日が沈むとまったく見えなくなります(笑)。授業を終えてから集まって練習をするので、とくに冬場は時間との戦いでもあるのです。
この日は寺田池のロードで12km走。まずは大学内で走りの基本となる動き作りをします。
その後寺田池へ移動し、スタートしました。
ペースに変化をつけながら走る練習です。選手のみなさんが交代で引っ張ります。
練習が終わるころには日も暮れてきました。地元の方の散歩コースでもある寺田池。近隣の方もたくさん応援してくださるそうで、杜の都出場が決まったときも差し入れをいただいたそうです。地元から応援される、地域から愛されるチームって素敵ですよね!
大東選手から後輩へ熱いメッセージ!
練習後、選手のみなさんにお話を聞きました。
大東優奈選手(4年、伊川谷)
まずはチームのエースで、富士山で全日本大学選抜のアンカーを務めた大東優奈選手。「スポーツと栄養に興味がありました。パティシエになりたいと思った時期もあったんです。兵庫大学では管理栄養士をとるための勉強をしてきました」
杜の都出場が決まったときを振り返り、「4年間かけてきた思いが達成できて、うれしかったです。初めてのコースということでコースの特徴も探りながら、襷(たすき)をつなぎました」と話しました。
富士山では2年連続で全日本大学選抜に入り、上りのキツい7区を任されました。
「今年は雨で寒くて、走ってても体が温まらないようなコンディションでした。現地で応援してくれるチームメイトもいて、ありがたかったです」
いよいよ卒業のときが迫ってきました。後輩たちに向けて「プレッシャーもあると思うんですけど、個人個人がしっかりしているので、お互い刺激し合って上がっていってほしいです!」と、熱いメッセージをくれました。
横川海姫選手(よこがわ・みき、3年、須磨学園)
全日本大学女子駅伝でアンカーを務めました。
「高校の後輩に樽本監督の娘さんがいたんです。トレーナーを育てるコースがあるのも魅力でした。ほかの大学のようにグラウンドがないですが、寺田池を走っていると近所の方から応援されるのがいいですね! 駅伝前は差し入れにみかん、ゼリーなどいただくこともあるんです。風も吹くし、地面がデコボコのところもありますが、自然と体幹が鍛えられます(笑)」
「夏合宿は今までで一番キツかったんですけど、4回生の3人がチームを引っ張っていってくれました。杜の都にいきたいとずっと思ってたので、決まってうれしかったですし、みんなで泣きましたね。目標を高く持って取り組めました。杜の都では悔しい結果でしたけど、今年は最上級生になるので、今年もいけるようにしたいです!」
山本千絵選手(3年、姫路商業)
杜の都の予選、本戦とも1区を走った山本選手です。栄養マネジメント学科で管理栄養士を目指しています。
「高校の先生の勧めもありました。以前は貧血になったこともあって、栄養を学べるのが魅力的でした。講義以外にも実習や実験もあって、日々たくさん学べます。選手はみんな兵庫の出身で、4年間で全日本に行くのが目標でした。1年だけだと『たまたま』って言われるので、みんなでまた上がっていきたいです! 最終学年はいままで陸上を続けられる環境を作ってくれた家族に、いい結果で恩返ししたいです」
前田久瑠実選手(2年、姫路商業)
杜の都の予選でアンカーを務めた前田選手は得意の変顔でチームを盛り上げるとか(笑)。
「小学校のとき陸上クラブで、監督の娘さんと一緒でした。中学は横川さんと一緒。高校で山本さんと一緒。知ってる先輩がいるチームで安心感がありました! 大学のクラスの人数も少なくて、アットホームな雰囲気が好きですね。大学では健康運動指導士の資格を取得して、将来はスポーツインストラクターとして働けるように、指導する立場のあり方を学んでいます。今年は上級生になるので、チームに刺激を与え続けていけるように頑張ります」
清水里名選手(2年、赤穂)
「姉が通っていて楽しそうだったので、進学しました。授業では保健体育教諭の免許を取るために、陸上以外のスポーツもできるように学んでいます」
全日本大学女子駅伝では4区を走りました。予選では出番がなかったということで、次回に向けて「予選も走って全日本行きを決めたいです! 1500mをメインに出場していますが、駅伝でも活躍できるように意識してます。先輩のように練習を引っ張っていける上級生になりたいです!」
島根からやってきたマネージャーの別所さん
チームを支える縁の下の力持ちが、マネージャーの別所いづみさん(1年、出雲北稜)です。
「栄養の勉強をしたかったのと、陸上に関わりたいという思いがありました。中学で長距離、高校で短距離を経験してきて、大学では違う視点から陸上に関わりたいと思い、大学ではマネージャーをすることにしました」
マネージャーのやりがいについては「選手に頼ってもらえるときや、選手が自己ベストを更新したときです。まだまだマネージャーとして未熟者ですが、選手から頼ってもらえたときは『マネージャーとして働いてる』と感じます」。謙虚に話してくれました。
吉島コーチ「本音は私も杜の都を走りたかった」
選手にとってよきお姉さん的存在なのが、就任2年目の吉島奈那コーチです。兵庫大の卒業生で、樽本監督の教え子です。
「チームを全日本に、という目標を見事に達成しました! 私も目指してたので、本音は走ってみたかったですね(笑)。でも、みんなに連れてってもらったといううれしい気持ちでした!」
樽本監督について聞くと、「尊敬してます」。将来については「自分らしく指導していきたい」と、指導者としての意気込みを話してくれました。
選手全員が兵庫出身、しかも自宅通いでつかみ取った全日本大学女子駅伝出場という快挙。地域からも応援されるチーム作り。決して言い訳をせず、いまの環境でベストを尽くす姿勢。栄養、健康、福祉、保育といった選手のキャリアも考えた学業との両立。アットホームで魅力あふれるチームでした。兵庫大学女子駅伝部のみなさん、ありがとうございました!