ラグビー

連載: プロが語る4years.

僕の武器と夢が詰まった「全国ステップチャレンジ」 プロセブンズ選手林大成6完

林(左端)は「全国ステップチャレンジ」で全国を旅し、セブンズの面白さを多くの人に伝えている(写真はすべて本人提供)

連載「プロが語る4years.」から、東海大卒業後にキヤノンイーグルスを経て、2018年4月より7人制ラグビー(セブンズ)専任選手としてプレーする林大成(27)です。東京オリンピック日本代表の候補選手にも選ばれています。当連載は林自身が自らの歩みをつづっていきます。6回の連載の最終回は、「全国ステップチャレンジ」など新たな挑戦を続けるいまについてです。

日本中に熱狂を、“ホームレスラガーマン”が見た夢 プロセブンズ選手林大成5

ワールドカップを観客席で見て

18年7月、セブンズのワールドカップがあった。4月にあった香港セブンズのメンバーから漏れた僕にとっては、いわゆる背水の陣だった。なんとか遠征メンバーに入ってアメリカには行ったものの、一人がバックアップにまわることになる最終のメンバー選考で、大会メンバーから外れた。アメリカに行ってからのパフォーマンスがあきらかによくなく、とくに他国チームとの試合形式のゲームでは散々だった。

世界で活躍するだけの自信がなかったのだと思う。実力不足を補おうと、「自信を持とう」「自分はできるんだ」と過剰に言い聞かせていた。しかし世界のレベルを前に、ボールキャリアとしての能力は乏しく、自信を持って意思決定や状況判断ができなかった。代表でありながら、何をすればいいのか分からなくなっていた。

観客席から見ることになったワールドカップ、日本は第2戦でフィジーとぶつかった。10-35で敗れたものの、後半の途中まで互角の戦いを見せた。チャレンジトーナメント(9~16位決定トーナメント)にまわり、ロシア戦は20-26で敗れ、最後のケニア戦は26-14で勝利した。ベスト8を目指していたチームにとって、15位という結果は満足いくものではなかった。それでも大舞台で活躍するチームメートは誇らしかったし、試合に出られない自分、世界で戦えるマインドでなかった自分への悔しさが強く残った。

武器をつくるため、ステップに目をつけた

帰国後、ボールキャリアとしての武器をもつべく、ステップのトレーニングを増やした。しかし、18年度のワールドシリーズには10大会中9大会に出場したが、ステップが試合で出たことはほとんどなかった。ステップがうまくなかったからだ。

19年6月にワールドシリーズが閉幕し、一区切りついたところで今後のことを考えた。このままの取り組みの先に、東京オリンピックで活躍して優勝する姿が見えるか。そこに自分自身がつくりだす熱狂はあるのか。このままでは難しいと感じた。局所的なアクションではなく、どういった活動をすればそこに近づけるのか、という考えから生まれたのが「全国ステップチャレンジ」である。

「全国ステップチャレンジ」初期、名古屋の中学生68人と。この中で最初から林のことを知っていたのは3人程度だった

ステップの練習をしても、一人で淡々とやるだけでは成長が見込みづらい。それを誰かと一緒に取り組み、言語化して伝え、SNSなどに動画投稿する。人に見られているという環境をつくり、成長せざるを得ない状況に自分を置いた。成長だけが目的なら、身近なパートナーと取り組めばいい。しかし、ストーリーがないところに熱狂は生まれない。「所属チームなし、家なし」の自分がもつ自由度を生かし、全国からパートナーを募集し、旅をしていくという企画にした。

セブンズに興味を持ってもらい、試合を見てもらうためにはアクションが必要だ。だから、こちらから会いに行くことにした。活動を続けることでファンを増やし続け、「何かやっているぞ」という興味を持ってもらうことでいろんな人から注目されることを狙った。

下手だったステップがトライにつながった瞬間

これまで撮影してきたステップでうまくいったものを抜粋し、解説を入れてSNSで発信する。まずはこれを10日間に亘(わた)って実施した。パスやキックやタックルなどとは違い、国内ではステップのコーチングはほとんど実践されておらず、僕の動画は一気に広がった。その後、「全国ステップチャレンジ」に多くの人が参加してくれた。

当初は実際にうまくもなんともなく、ハッタリをかましていただけだったので、ステップがうまい人たちは僕のステップをバカにしていたと思う。1on1でのステップに誘われても、正直なことを言うと、下手なのがバレるのが嫌でやりたくなかった。そんなんだから上達するしかなく、狙い通り一気にうまくなりだした。

ボールキャリアとしての武器のためにステップを始めたと言ったが、実はその理由は半分で、もう半分は“動画ウケ”を狙ってのことだ。自分が頑張れる理由はたくさんあった方がいい。この「全国ステップチャレンジ」を続けるために、クラウドファンディングで支援を募ったところ、(ありがたいことに)予想以上の支援者と金額が集まり、しばらく先まで続けられることになった。企業からサポートもしてもらえるようになり、活動の幅もより広がっている。

マツシマホールディングスなどの企業からサポートを得て、「全国ステップチャレンジ」の活動の幅は広がった

それなりのステップが踏めるようになってきてからしばらくの間、よく言われる言葉があった。「試合で踏め」。ごもっともなツッコミだ。自分自身もそう思っていたところ、今年3月に行われたバンクーバー大会でステップからトライを決められた。たった一つのトライにすぎない。それでも、いろんな僕のステップを見てきてくださった方々が、僕のそのトライに反応をしてくれた。そんな感情の動きをもっと広げていきたいし、東京オリンピックではいろんな人の感情を乗せて、揺さぶって、熱狂を生み出したい。

人生を豊かにする「高揚感のある挑戦」を求めて

最終的にやりたいことは何かと聞かれることがあるが、自分でもよく分からないのが本音だ。やりたいことは日々変わるし、次の手として考えていたことも、いつの間にか変わっている。進んでいけば、できることも見える景色も変わるのだから当然だろう。国内ではステップが徐々に広がってきたと思うが、ステップが当たり前のスキルやトレーニングとしてもっと浸透したら、プレーヤーもファンも楽しみが増えると思っている。

いま僕が国内でやっていることを他競技や世界に広げて活動したいし、フィジーに武者修行にいったり、世界のトップ選手と1on1の勝負もしたりしてみたい。1on1の大会ができたら楽しいだろう。それらすべての活動を通じて、セブンズという競技のステージも上げていけたらと思っている。僕がやっているYouTubeなどは、そんな夢につながる手段の一つ。いま思い描いている僕のやりたいことも、これからどんどん形が変わっていくだろうが、僕の根底にある「高揚感のある挑戦」という思いは変わらない。

僕が15人制ラグビーをしていたとき、また18年にやめたとき、どこからもオファーはなかった。しかし15人制から離れて2年経ってからは、15人制のいくつかのチームから話がくるようになった。すごくうれしかったし、ありがたいとも思った。だが、つい調子に乗って「オファーを出す際の交渉スタート金額は最低2500万からです」と公表したら、一斉に手を引かれてしまった。それでいい。勘違いと言われようが笑われようが、僕には信念と覚悟がある。

僕はストレス耐性が弱く、気持ちが乗らないことをやり通すことができない。その反面、新しい一歩を踏み出すときのリスクを顧みずに行動ができる。だから、人生をラグビーにかけるのではなく、ラグビーを人生にかけるという考えをもった。この先も続く人生に、いかに自分の尺度で充実感をもたらしていくか。ラグビーに多くのことを捧(ささ)げてきた分、ラグビーを活用して人生の選択肢を広げていきたいと考えている。競技者として活躍できる人間は一握り。そして必ず終わりがあり、その先も人生は長く続く。だからこそ、人生を豊かにするためにどうしたらいいのか。誰しも一度は、自分に問いかけてほしいと思う。

先が見えないなら、もっとその先を見ればいい

新型コロナウイルスの影響で大学ラグビーは春季大会が中止になり、スポーツ界全体に先行きが見えない不安があるのが現状だ。目指していた舞台がなくなり、モチベーションを保てずにいる学生も少なくないだろう。僕が目指してきた東京オリンピックも1年延長となった。リアルな高揚感を味わえなくなり、これまでの手法では価値が感じづらくなったと感じている。

目指していた目標が見えなくなっても、歩みをやめなければ、終わりじゃない

それでも、制限があるからいまだからこそ、生まれるアイデアやできることはある。先が見えないときは、そのまた先を見据えていまを歩けばいい。いまはチャンスだ。いままでとは違った視点で自分と向き合い、自分の中にある本当の欲を知り、小さいことから踏み出せばいい。競技に没頭していたときには見えなかったものが、いまならきっと気づけるはずだ。

いまがどれだけやるせない状況であっても、大切なものを取り上げられてしまっても、バッドエンドではない。前に進もうと歩き続ける限り、その道は続いていく。僕自身、コロナ禍に直面して立ち止まることもあったけれど、やっぱり走っていたい。外的要因に支配されず、それぞれが納得できる未来に向けて、まっとうしよう。

プロが語る4years.

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