フィギュアスケート

連載:4years.のつづき

競技と学問の両立、新しい自分と出会った フィギュアスケート・小塚崇彦2

大学でバイオメカニクスに興味を持った(すべて撮影・朝日新聞社)

「4years.のつづき」から、フィギュアスケート男子で2010年バンクーバーオリンピック8位、2011年世界選手権銀メダルの小塚崇彦さん(31)です。中京大卒業、中京大大学院修了、社会人になってスケート靴の開発やスケート教室など、競技の普及活動に携わっています。全5回連載の第2回は、競技と学業を通して出会った世界について語ります。

スケート一家に生まれて 文武両道で目指した世界 フィギュアスケート・小塚崇彦1

オリンピックを目指し中京大へ

小塚さんは2006年、中京大中京高校2年で世界ジュニア選手権を制覇し、4年後に迫るオリンピックへの期待がかかっていた。将来を見据え選んだのは地元の中京大学体育学部(現スポーツ科学部)。入学直後に構内にフィギュアスケート専用のアイスアリーナが完成予定で、練習環境を整えるためだった。「社会人になって数字に強くなっておきたいと思い、経営学部を希望していたのですが、体育学部を薦められました」と笑う。

実は進学を機に上京も考えていた。小学生時代から指導を受けていた佐藤信夫、久美子コーチの拠点が横浜だったこと、両親ともに在京の大学を卒業していることからだ。「確か高校の進路希望調査で早稲田大学、日本大学と書いた記憶があります。推薦ですが歯学部を考えたこともありました」

大学と両立、海外から手紙も

入学後、平日は校内の専用リンクで、週末は横浜で佐藤信夫・久美子コーチの指導を受け、充実した練習ができた。大学1年で全日本選手権2位と表彰台に上がり、世界選手権にも初出場して8位と健闘した。

試合で海外遠征が多かったがテストは欠かさず受けた。教務課に相談して出席代わりに課題を提出するなど練習に集中できる環境を整えてもらった。教授を訪ねて事情を説明したり、海外から手紙を書いたりした。「観客がくれる花束と一緒かもしれません。それによって人と人がつながり、心が豊かになります。それはすごく大切なことで、父から学びました。父が早稲田大学でスケートを教えていたとき、手紙をくれた学生がいたそうです。自分を思ってくれたこと、そのために時間をとってくれたこと、手紙一つでも違うよと言っていました」

表現のスタイルを確立

大学2年のオリンピックプレシーズンは振付師と運命的な出会いがあった。ペアの元カナダ代表、サンドラ・ベジックさんが振り付けを手がけることになった。小塚さんは子どもの頃、ベジックさんが振付した元世界王者・カート・ブラウニングさんの『雨に唄えば』のプログラムをビデオテープが擦り切れるほど見ていた。佐藤コーチの娘で元世界女王・佐藤有香さんとの共作で、エキシビション曲『Save the Last Dance for Me(ラストダンスは私に)』が生まれた。さらに憧れのブラウニングさんも振り付けに加わった。

表現のターニングポイントになった2008-09年シーズンのSP「テイク・ファイブ」

この特別なプログラムが大好きで繰り返し練習した。抑揚のある曲をこなすことで表現の幅が広がった。「これまで何かを見せたいというのがなくて、とにかくジャンプを跳んでスピンを回って点数を重ねていけばいいという考えでした。ですが、エキシビションのプログラムは『自分にはまった曲』であり、自分の表現のスタイルが確立されていきました」。そこからショートプログラム『テイク・ファイブ』を佐藤有香さん、サンドラさんと一緒に作り上げた。

成績にも結びつき、グランプリシリーズのスケートアメリカ優勝を皮切りに、グランプリファイナル2位、全日本選手権2位、世界選手権6位と、オリンピックロードを着実に進んでいった。

トリプルが跳べても垂直跳びはできない?

スケートと同じく、学業でも大切な出会いがあった。力学やスポーツ生理学など様々な学問と出会ったが、とくに興味をひかれたのがバイオメカニクス(生体力学)だった。のちに大学院で研究する分野だ。

バイオメカニクスへの関心の原点は入学前からあった。「スケート部長だった湯浅景元教授(2018年定年退職)と話した際、浅田真央さんと伊藤みどりさんのトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)の違いについて高さや回転速度で分析した結果を教えてもらい、面白いと思いました」。もともと数字に強かったこともあり、動作解析を学んでみたくなった。

卒業論文は必須ではなかったが、小塚さんは進んで研究テーマを設定して取り組んだ。それが垂直跳びと氷上のジャンプの相関関係だった。「トレーニングで垂直跳びを計測しているのですが、成人男性の平均より下で一向によくならない。トレーニングをしているのになぜ垂直跳びができないのだろうという疑問から始まりました」

選手の協力も得て相関関係を調査。トリプルアクセルや4回転ジャンプが跳べても、垂直跳びの数値が成人平均より低い選手もいれば、その逆もあった。小塚さんなりの解は、フィギュアスケートのジャンプは跳ぶだけの要素ではなく、回転速度や氷をつかむといった他の要素も重要であるということだった。湯浅教授がスポーツ用具の研究をしていた経緯もあり、選手の悩みの種であるスケート靴の改良にも関心を持っていた。

スケートのジャンプと垂直跳びの関係性に目をつけ調査した

「何のための大学なのかを考えていました。インプットだけではなくアウトプットが大事だと思います。自分の中で思った疑問をその場ですぐ行動して、たとえ直ぐに結果が出なかったとしても原因を一つでも潰すことができるだけでも次につながるので有意義だと思います」

【続き】オリンピックで4回転、勇気を届けた世界選手権銀 フィギュアスケート・小塚崇彦3

4years.のつづき

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