陸上・駅伝

連載:M高史の陸上まるかじり

玉川大OG・山口遥さん 市民ランナーとして開花し、再び大阪国際女子マラソンへ!

市民ランナーながらマラソン2時間26分35秒の自己記録を持つ山口遥さんです(写真全て本人提供)

今回の「M高史の駅伝まるかじり」は山口遥さん(33、AC.KITA)のお話です。全日本大学女子駅伝常連の玉川大学では駅伝メンバーに入れず、目立った成績もありませんでした。大学卒業後は市民ランナーとして走り続け、徐々に自己記録を伸ばし、昨年の大阪国際女子マラソンでは2時間26分35秒で日本人2位。都道府県女子駅伝でも東京都代表で出場しました。スーパー市民ランナーとして実業団選手顔負けの快走を続けています。

中学は楽しく、高校では強豪校で

神奈川県横浜市出身の山口遥さん(旧姓・大原さん)。小学校では「リレーの選手に選ばれたり選ばれなかったり、人よりほんの少し速いかなぁというくらいのレベル」ということもあってか、中学では陸上部に。

「最初はハードルをやっていたのですが、長距離の先輩が優しくて、そのまま長距離に転向しました(笑)。中学の丸山先生が優しくて、メニューも自分たちで考えるスタイルでした」

中学時代から自主性に優れていたと思いきや「誰も理論とかわかっていなくて、そのときのノリでやっていました(笑)。当時はやりたいことしかやっていなかったのですが、とにかく楽しかったですね。感覚で走っていました」。きっと先生も、まずは陸上競技を楽しんでほしいという思いがあったのかもしれません。

高校は新栄高校(神奈川)へ。陸上競技が盛んな学校で短距離やフィールド種目も強く、インターハイ常連の強豪校でした。

「中学が楽しくゆるゆるやっていたので、高校の上下関係の厳しさもあって最初は驚きましたね。それでも、挨拶、礼儀、物を大切にすることなど、走りだけじゃなくて成長させてもらって感謝しています」

高校2年生の神奈川県高校新人陸上では800mで優勝。同じ高校の後輩が2位に入ってワンツーフィニッシュとなりましたが「駅伝を目指す選手は1500mと3000mに集まっていたのでラッキーな優勝でした」と謙遜されます。

県新人で優勝したことにより関東高校新人陸上に進んだものの「けがで出られず、後輩のビデオ撮影をしていました」と悔しさを味わいます。その後、けがから復活して神奈川県高校駅伝ではエース区間である1区も務めました。

玉川大学での4年間

高校卒業後は先生の勧めもあって玉川大学へ。「大学では自主性が重んじられて、自分で色々考えて行動することが求められましたね」

高校までとは違ったスタイル、環境ということもあって慣れるのにも時間がかかりました。同級生にはのちにリオ五輪女子マラソン日本代表となる田中智美さんがいました。「同期が強くて、都大路に出場したことある選手ばかりだったんです。入った当時は田中智美ちゃんと私は都大路経験もなく、目立つようなタイムも持っていなかったんです」

玉川大学では授業、学科に応じて練習時間が分かれていたそうで、田中さんとは練習時間があまり一緒にならなかったそうですが、田中さんはメキメキと力をつけていきました。

「田中智美ちゃんは、知らない間にものすごい速くなっていてびっくりしました(笑)。頑張り屋さんでけがも多かったんですけど、けがをしている最中もみっちり補強・体幹トレーニングをしていて、走っている私よりも汗をかいているんじゃないかってくらいでした(笑)」。コツコツとストイックに努力する同級生の姿を感じていました。

仲間にも恵まれた玉川大学での4年間でした!

学生時代の自己記録は5000mが17分10秒。学生時代を振り返るとご本人的には「ただただ続けていた4年間」と表現。全日本大学女子駅伝では4年間メンバーに入れず、駅伝では付き添いも務めました。

杜の都駅伝の付き添いでは「順位、前後の差を的確に伝えなきゃと思っていたのですが、頭がこんがらがって付き添いなのに付き添いらしいことができませんでしたね(笑)」といったエピソードも。

「全国各地からいろんな選手がきていろんな話が聞けて、尊敬する人が増えました!」という陸上に打ち込んだ学生時代を過ごされました。

市民ランナーとしてマラソンで開花

大学卒業後 市民ランナーチームAC.KITAで走り続けました。そこでランナーである夫・博之さんと出会い、23歳でご結婚されました。

初マラソンは23歳で出場したつくばマラソンで、3時間00分13秒。2回目の横浜国際女子マラソンでは3時間03分台。いずれも30km以降の失速でサブ3を達成することができませんでした。

2011年の横浜国際女子マラソン(右が山口さん)

「状態はすごく良かったのに、状態が良かったからこそ直前に頑張りすぎてしまったんです。コーチがせっかくメニューを組んでくれたのに(練習のタイムが)速い分には良いだろうと(笑)。調子のピークがずれてしまったんですね。それ以降、コーチを信じようと思いましたね(笑)」

その後、別府大分毎日マラソン優勝、奈良マラソン優勝、スポニチ山中湖ロードレース9連覇など、市民マラソンで連戦連勝。

各地の市民マラソン大会で連戦連勝を重ね、記録もどんどん伸ばしていきました

2時間40分台、30分台とタイムもどんどん伸ばしていき、2019年の神戸マラソンでは2時間27分38秒と2時間半切りを達成。実業団選手顔負けのタイムをマークしました。また、速さだけではなく特筆すべきはレース出場数の回数。フルマラソンには約50回出場していて、「まるで川内優輝選手のよう」と言われるほど連戦されています。

「練習方法は特に変えていないのですが、マラソンで脚ができてきてJOGがしっかりできるようになってきたのが大きいですね。自分で負荷をかけようと思っていたわけではないんですけど、2時間JOGが楽にできるようになってきて、JOGを2時間半にしようとか、自然とJOGの時間が増えました」

市民ランナーの皆さんと走ったり、時にはブラインドランナーさんの伴走を行うことも

山口さんの快走を支える練習の基本はJOG。また、ポイント練習をする時は市民ランナーチームで男子選手に囲まれ、仲間の力を借りて練習をしているそうです。

都道府県女子駅伝・東京都代表に

マラソンの記録向上とともにトラックの記録も大幅に向上し、5000mで15分台。学生時代の記録を1分半ほど更新。都道府県女子駅伝では東京都代表に選ばれて1区を任されました。

「1区を走ったのは高校駅伝以来10年ぶりでした。市民ランナーになってからもなかなか1区を走ったことがなく、選んでもらったからには頑張らなきゃと思っていたのですが、色々テンパってしまって……流れを作れずに申し訳なかったです。独特のプレッシャーで緊張してしまいましたね」

東京チームで爆走したのは新谷仁美選手(現・積水化学)。「夢みたいと思っていました。新谷さんとは同い年なんです。お話もさせてもらいましたし、普段は面白いことも言うんですよ。走る前はモードに入って真剣になります。オンとオフがカチッとしっかりしていて、プロ意識のすごい方でした」

1区で思うように走れなかった山口さんでしたが「終わってからは、なんてことをしてしまったんだと落ち込んでいたところに、新谷さんが『山口さんが1区でほんと良かった』と優しく励ましてくれたんです」。新谷選手の気遣い、優しさ、思いやりに心が救われました。

大阪国際女子マラソンでの快走!

都道府県女子駅伝の2週間後に出場した大阪国際女子マラソンでは、2時間26分35秒と自己ベストを更新し、7位。日本人2位の好走でした! 

「オリンピック代表がかかっていて、ハイペースにみんなついていった部分もあって順位はラッキーだった面もありますが、タイムに関しては頑張れたかなと思います」と冷静に分析されました。

また「駅伝でちゃんと走れなかったのに、マラソンで個人でちゃんと走れて『なんて奴なんだ!』って自分で思いましたね(笑)」と付け加えられました。

気持ちを切り替えるのが得意という山口さん。「私、単純なので『大丈夫だよ!』と言われると『あ、そっか!』とすぐ気持ちを切り替えることができるんですよ(笑)」と心の持ち方についても教えていただきました。

初の日本選手権出場!これからの目標

トラックでも5000m15分34秒04、10000m 32分28秒90と記録をさらに伸ばし、昨年12月には日本選手権10000mにも出場、18位、33分06秒98の成績でした。

日本選手権では日本記録を更新した新谷選手(左)が山口さんを周回遅れにする場面もありました

「学生時代は、まさか将来日本選手権に出られるようになるとは夢にも思っていなかったですし、そもそも標準記録のある大会に出られるとは思っていなかったですね」。市民ランナーになってからも楽しく走り続け、そして現状打破し続けたことで、学生時代には全く届かなかった夢の舞台に立つことができました。

夫・博之さんも応援してくれています。「休みをとるのが大変なお仕事なんですが、ちゃんと休みを取ってくれて日本選手権も応援に来てくれたり、プレッシャーをかけるようなことは言ってこないで『楽しんでね!』くらいでホワンとしていますね(笑)」

2018年つくばマラソンでは夫・博之さんの応援に

今後はマラソンで2時間24分台を出したいという山口さん。「市民ランナーの星」ともいえる存在の山口さんだからこそ、市民ランナーの皆さんへの思いも強く持っています。

「走っていて良かったな、と思ってもらえたら嬉しいです。マラソンは忍耐のいるスポーツですが、プラス思考で心の健康を大切にしていただきたいですね。自分自身がライバルという言葉もありますが、自分自身が一番の自分の味方でもあります」と走る全ての方にエールを送られました。

仲間の応援も力に、走り続けます!

学生時代は目立った成績を残せなかったものの、好きで走り続けていったら、花が開くことを証明された山口遥さん。応援を力に自分自身を超え続ける姿は、アスリートの皆さん、市民ランナーの皆さんにも勇気や希望を届けてくれる存在ですね!

昨年、日本人2位の快走を見せた大阪国際女子マラソンに再び挑む山口さんの走りにも注目です!

M高史の陸上まるかじり

in Additionあわせて読みたい