ビーチバレー

連載:4years.のつづき

東京五輪に向け、37歳になった今「限界を決めつけない」 トヨタ自動車・石島雄介4

ビーチバレーに転向して迎えた1シーズン目、石島は表彰台に届かなかった(撮影・全てビーチバレースタイル)

「ゴッツ」の愛称で親しまれ、男子バレーボール日本代表として2008年の北京オリンピックを経験。17年からビーチバレーボールに転向し、37歳を迎えた現在は、東京オリンピックを目指して突き進んでいます。そんな石島雄介(トヨタ自動車)のストーリーを4回連載で紹介します。最終回はビーチバレーで世界を目指す今についてです。

女子高校生に負けた

「Vリーグ時代、ビーチバレーのイベントで優勝していたし、すぐに結果が出るだろうって思っていた人は多かったんじゃないですか?」

石島は17年4月、トヨタ自動車ビーチバレーボール部へ入団。ここからビーチバレー人生が本格的にスタートした。しかし、1シーズン目は国内ツアーでは表彰台に立つことはなく、そう簡単には勝てなかった。こんなエピソードがある。

「遊びでやっていた時、名前も知らない年配の方とゲームをしたら、全く勝てませんでした。『また~! 手を抜いて~!』と言われても、全く手なんか抜いていないし(笑)、こっちはヘロヘロ状態。転向したばかりの頃も、練習でアンダーカテゴリーの女子選手と1対1のアンダーハンドゲームをやって、あっさり負けたこともあります。『女子高校生に負けた』ってしばらく言われ続けましたね」

パートナーと協力し合いながら、個としての自立も大切

6人制バレーと2人制ビーチバレー。2つの競技を経験した石島は、似て異なる競技だという。2つを車に例えるなら、バレーがF1、ビーチバレーは四輪駆動車だと。砂の上という足場は不安定で、ひとつの動きをするのに床の上で動くよりも大きなエネルギーや安定したパワーが必要となる。

「中学校1年の時にやっていたようなパスの基本を、ビーチに転向してからずっと重視してやっています。その時の自然環境によって、足の出し方ひとつとっても毎回違う。スムーズに出せなかったらどうして出せないのか。基本的なことをシンプルに考えて毎日練習しています」

ビーチバレーは6人制バレーよりも密なコミュニケーションが必要とされる

ビーチバレーは2人一組だが、テニスやバドミントン、卓球などのダブルス競技とは違って、パートナーとボールをつないで得点を狙う競技。パスやトスのズレはひとつのプレーのミスにつながりやすく、それが積み重なっていくと2人の心に隙間風が吹き始める。そこを修復していけるか否かが重要で、6人制よりもその分、ビーチバレーはコミュニケーションの濃度も高くなる。

転向してからまる4年間。石島は個性あふれる様々なパートナーとペアを組み、激動の年を過ごしてきた。ときには試合後ベンチに居残り、パートナーと長い時間話し合う場面を見かけることもあった。

「ビーチバレーを知らないことを承知で意見していました。それは自分自身でもよく分かっていましたし、それができたのはパートナーの懐の広さがあったからです。遠慮しながら時を過ごすよりも腹を割った上で話す方が自分自身も成長できると思ったし、お互いよくしていこうという気持ちがありました」

トヨタ自動車ビーチバレーボール部には、各ペアに監督やコーチが帯同している。石島はときには個人に寄り添ってくれるコーチの存在も大きいという。

「うちのチームは専属のコーチがいて、個人に特化した課題やトレーニングメニューが提供されます。インドアバレー時代はチームスポーツという側面があったので、選手個人への適応に難しい面もありました。そんな中で自分の考えは、同じ目標に向かっていればそこへ行き着くまでのプロセスは人それぞれでいい、というものでした。ビーチバレーもチームスポーツですが、個として自立しないといけない部分があって、自身の経験で埋められない部分はコーチが助けてくれる。ビーチバレーという競技は自分に合っていると思います」

個の力も必要とされるビーチバレーは自分に合っていると石島

今年1月で37歳を迎えた石島は、「24歳くらいの頃からビーチバレーを経験しておけばよかった」とはにかむ。それが今の本心だと。

すぐそばにいるベテランに負けていられない

現在5シーズン目の開幕に向けて、準備を進めている。その過程にあるのは、東京オリンピック出場をかけた戦いだ。石島は、2019シーズンから同じ部内の大先輩である白鳥勝浩とペアを結成。国内のトップツアーでは6戦中5勝をあげ、着実に王者への階段を上ってきた。2020シーズンは最大の目標だった東京オリンピックイヤーを迎えるはずだったが、主要大会の開催は2大会にとどまり、いずれも準優勝に終わった。

「昨年はコロナでなかなか思うようにチームで練習できず、シーズン後半に大会が続いてピーキングが難しかったですね。そんな中で自分をコントロールできていないことに問題があると感じました。『心・技・体』という言葉があるように、やっぱり体力を底上げしていかないと心を操縦できない部分が出てくるので、フィジカルの管理は重要。色々な練習方法を試していく中で、できるプレーを増やしていく。それに尽きます」

フィールドが変わっても、飽くなき目標への挑戦は続いている。それどころかビーチバレーという競技を始めてから、その思いはより鮮明になっている。なぜなら、パートナーの白鳥は現在44歳。現役最高齢の西村晃一(東京ヴェルディWINDS)は47歳。すぐそばに上へ上へと昇り続けているベテランたちがいる。

パートナーの白鳥勝浩(右から2人目)の姿勢にも多くの学びを得ている

「白鳥さんや西村さんは、20代の選手と一緒に練習やトレーニングに励んでいます。ストイックにやり続ける姿を見ていると普通じゃないですよね(笑)。要するに人がどう思うかよりも、自分がどう思うか。ビーチバレーだけではなく、何でもそう。1回失敗したからといってそこで自分でレッテルを貼ってしまうのではなく、自分がどうしたいのか、明確な目標を持つことが大切。僕自身も、ビーチバレーをこれ以上やっていても自分はもう伸びないと思った時がやめる時だと思っています」

「自分の限界を決めつけない」。石島の信念はこの先もずっとぶれることはない。

4years.のつづき

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