「守るものがあると強くなれる」自慢の通る声でこれからも 茨城ロボッツ・平尾充庸4
今回の連載「プロが語る4years.」は、2020-21シーズンにB2リーグプレーオフで2位となった茨城ロボッツの主将・平尾充庸(あつのぶ、32)です。大学時代は天理大学でプレーし、2017年から茨城ロボッツで戦い、Bリーグ開幕以来初となるB1昇格をつかみました。4回連載の最終回は広島ドラゴンフライズ時代と、茨城ロボッツでの現在についてです。
佐古HCと大野ACから多くのことを学んだ広島時代
2014年に広島へ移籍してすぐ感じたのは、佐古賢一ヘッドコーチ(HC)が放つオーラだったという。指導するコートの中でも普段着で会うコートの外でも、佐古さんの周りには常に明るい光が射しているように見えた。今も平尾は佐古さんを「特殊な人」と評する。
「例えば(大野)篤史さん(アシスタントコーチ、AC)がプレーのデザインをしたとします。コートでそれをやる前に佐古さんが『平尾、そこはこういうふうに行ってみ。そしたらここが必ず空くはずだから。まずはやってみ』とアドバイスをくれるんです。で、言われた通りに動くと、まさにそのまんま佐古さんの言葉通りになるんですよ。あの能力は“特殊”という言葉でしか言い表せません」
平尾が広島に移籍した同年、トヨタ自動車アルバルク(現・アルバルク東京)から高い経験値を誇る身長206cmの竹内公輔(現・宇都宮ブレックス)が移籍加入。若手選手たちの兄貴的存在として、公私でチームを引っ張った。その甲斐(かい)もあって、翌15年の天皇杯では快挙とも言える準優勝を達成。メインガードを務めた平尾にとっても、大きな達成感を得られたシーズンだったと言えるだろう。
「自分のキャリアを振り返った時、広島にいた2年は色々な面で成長させてもらえた時間だったと思います。今やBリーグ優勝チームのHCとなった篤史さんと日本代表を指導する佐古さんにコーチしてもらえるなんて、もうめちゃくちゃぜいたくなことですよね。僕はあの2年でスキルを含めポイントガードとして必要なことを佐古さんから学んだと思うし、プロとしての在り方、考え方、生き方を篤史さんに教えてもらったと思っています」
周りの長所を引き出し、勝たせるガードになりたい
後にバンビシャス奈良に移籍した時も、その経験は生きた。2017-18シーズンに加入した今の茨城ロボッツでも同様だ。特に主将を任された2020-2021シーズンは、「これまでのキャリアで培ってきたものをチームのために全部出し切ろう」と心に決め臨んだシーズンだった。
「言葉にすれば『責任』と『覚悟』でしょうか。この2つを今までで1番意識して、今までで1番背負って戦ったシーズンだったと思います。それだけに2位となってB1に昇格できたことはすごくうれしいんですけど、やはりファイナルで敗れたことには悔しさが残ります。群馬クレインサンダーズのメンバーを見ると、主力となるのはB1で戦った経験を持つ選手。勝負どころでどういうプレーを選択するのが有効なのかとか。ゲームの流れを見ながらどこでシュートを打つべきなのとか、そういうことがよく分かっているんですね。ファイナルのうちと群馬には技術だけでなく、経験値やメンタリティにも大きな差があったと感じています。だけど、思えば選手の入れ替わりが激しかったロボッツがようやく出来上がってきたのはまだ最近のことです。そういった意味では今回の経験は次につながるもの、次に生きるものだと信じています。今シーズン、僕たちは非常に大事な経験ができたわけですね」
来シーズンも茨城でプレーすることはすでに決まっている。B1の舞台で戦うことの厳しさは覚悟しているつもりだ。厳しいが、自分もチームも戦いながら成長していきたいと考えている。
「僕はあんまりじっくり自分のスタッツとかを見る方じゃないんですけど、今シーズンは多分、得点もアシストも昨シーズンよりいい数字を残せたんじゃないかなと思っています。個人的には自分の得点より周りの選手の生かし方にフォーカスしたシーズンで、いかに気持ちよくシュートを打ってもらえるかとか、いかに長所を引き出してあげられるかとかを常に考えながらコートに立っていました。それは来シーズンも変わりません。今シーズンできたパフォーマンスがB1の舞台でどこまで発揮できるか分かりませんし、そこはひとつの挑戦だと思っていますが、ほら、僕にはポイントガードとして最大の武器とも言える“よく通る大声”があるじゃないですか(笑)。どんなに会場がうるさくても仲間に伝わるこの声で、来シーズンもチームを鼓舞(こぶ)していくつもりです」
「目配り、気配り、心配り、人に対する感謝を忘れず」
オフになり実家に帰った時は、今も兄たちとバスケの話をする。平尾によると上の兄は「能力系」、下の兄は「めちゃくちゃドリブルがうまい」らしい。3人で酒を飲みながらバスケの話を始めると、決まって2人から「まだまだおまえには負けへんでぇ」と言われる。平尾はそれがうれしい。県外の高校に進む時に泣いたオカンと、大学で試合に出られず悩む自分を励ましてくれたオトンと、疲れていても自分の練習につきあってくれた2人の兄ちゃんと、そんな家族がいたからこそ今の自分があるのだと思う。
「家族にはすごく感謝しています。それは妻と3人の子どもたちに対しても同じ。僕は24歳で結婚したんですけど、前に佐古さんから『おまえ、早く結婚してよかったなあ。人間、守るものがあると強くなれる。背負うものがあると頑張れる。早く結婚したおまえはこれからもっともっと頑張れるぞ』と言われたことがあるんです。その通りだなって思いますね。支えてくれる家族に感謝して、支えてくれる周りの人たちに感謝して、来シーズンも走り続けます」
最後に聞いた座右の銘は高校の時から変わらない。「目配り、気配り、心配り、人に対する感謝を忘れず」。いつも相手のことを考えて行動しているんですね、と聞いたら「そうですよ。例えばトイレに入って出る時は、次に入る人が履きやすいように必ずスリッパの向きを変えて出ますからね」と真顔で返された。
目配り、気配り、心配りのベテランガードが周りを生かしながらどんな茨城ロボッツを作っていくのか。自慢の大声がB1のコートに響き渡る来シーズンを楽しみに待ちたい。