ラグビー

スイカジャージーにのみ込まれ、たどり着いた結論は 東京都立大学ラグビー部物語8

東大からトライを奪う。モールは昨季からの得意技だ(東京都立大ラグビー部提供)

梅雨の合間の青空は、次第に厚い雲に覆われた。食らいつき、突き放され、のみ込まれた。春のシーズン、東京都立大学ラグビー部にとって唯一の公式戦。6月20日、東京地区国公立体育大会交流戦の東京大学戦は、そんな80分間だった。

楽しさと強さ、両立?東大戦を前に訪れた分岐点 東京都立大学ラグビー部物語7

新チームが発足し、重くのしかかっていた課題はフィジカルの弱さ。この一戦、早慶明とともに関東大学対抗戦の伝統を支えてきたスイカジャージーに対し、関東大学リーグ戦3部の東京都立大学は二つのテーマを掲げて臨んでいた。

「5m前進」と「押し返し」

アタック、ボールキャリー。ボールを持ってコンタクトした後、必ず5m前進しよう。ディフェンス、「ダブル」からの押し返し。左と右、上と下から2人がかりでタックルに入れる状況をつくり続けよう。そして、向こう側に押し返そう。

課題のフィジカルを強化するため、コンタクト練習に熱が入る(撮影・中川文如)

「相手と接触すると、すぐに倒れてしまう。練習試合で散見された場面です。それでは味方がサポートに入る時間を確保できない。『5メートル』『押し返す』と個々の責任を明確にすることで、意識も含めて改善したかった」とコーチの藤森啓介(36)。その責任を果たすための技術を、コンタクトの練習を増やしながら授けた。選手たちはオフの時間をウェートトレーニングに注ぎ、その技術を本番で体現できるだけのフィジカルを鍛えようとした。

19-19で折り返し

キックオフ。スピードに乗った相手のカウンターについていけず、いきなりピンチ。あっさりトライを奪われた。格上に先制パンチを許し、一方的になりかねない流れ。しかし、東京都立大学の選手たちは慌てなかった。外されたタックルもあったけど、仕留められたタックルもある。悲観することはない。

ラックから展開攻撃を仕掛ける。序盤は東大を押し込む場面も多かった(東京都立大ラグビー部提供)

手応えは間違っていなかった。試合再開から攻撃に転じると、ボールを小刻みに動かしながら、個々が力強くキャリー。トライを取って取られての展開に持ち込んだ。東大がバックスの素早いラインアタックでゲインラインを突破すれば、東京都立大学はFWのラインアウトモールで応戦する。ターゲットを絞った攻守の衝突も、勝ったり負けたりが続いた。前半終了間際、19-19に追いついて折り返す。

電池切れ、試合だから見えた課題

ハーフタイムを境に潮目は変わった。後半、東大に巧みな修正を施された。主導権を握っていたモールが効果を発揮するのは、敵陣に入ってから。それを逆手に取られるように、キックを蹴られて背走を強いられ、自陣に閉じ込められた。前半は通用していたフィジカルも、そうやって振り回されるうち、徐々に削(そ)がれていく。体をぶつけても、はね返されてしまう。そもそも、ぶつける以前に、かわされてしまう。

一時は17点差を開けられ、終わってみれば、26-36。トライ数で4本対6本と離された。歴史上、恐らく一度も勝ったことがない相手だから、善戦ととらえてもいい。ただ、リーグ戦3部優勝、2部昇格の目標と己との隔たりに焦っていたチームは、勝利を欲していた。楽しさと強さを両立させたい。藤森がコーチに就任した昨季からこだわってきたポリシーを、揺らがず貫くため、結果を残すと誓った東大戦だった。

東大の突進に対し、果敢にディフェンスを試みたが、徐々に劣勢を強いられた(東京都立大ラグビー部提供)

「勝てたよね」。試合後、藤森はそう声をかけた。チャンスで目立ったミス。キックへの対応。相手の修正に対し、再修正の策を打てていたら。経験不足の4年生を中心とするチームだ。本番の緊張感に耐えうるプレーの精度、一手、二手先を読む力に裏打ちされたゲームマネジメントという課題が新たに浮かび上がる。

藤森自身も、今後の役割を再認識した。「選手に問いかけると、局面での選択ミスを悔やんでいた。試合でしか見えてこないものがある。相手の力量や強みを考えた試合運びの落とし込みは、僕の仕事になる」

フィジカルの達成度は「現状、3割」。前半に競り合えたからこそ、後半の電池切れが持つ意味は重い。80分間、持続するフィジカルを手に入れなければ、勝負を制することはできない。

意を決したキャプテンの言葉

2日後、緑深いキャンパスに夜の帳(とばり)が下りていた。東大戦を踏まえ、さらにフィジカル強化に力点が置かれた練習の後の円陣。キャプテンの谷村誠悟(4年、東京・青山)が、意を決したように口を開いた。こんな内容だった。

勝利を求め、さらに練習の強度を上げるのか。それとも3部優勝、2部昇格という目標をあきらめ、身の丈に合った結果で満足するのか。つまり、楽しさと強さの両立を、あきらめるのか。ずっと4年生で話し合ってきて、やっぱり両立をめざそうと決めた。なぜ、こんなに厳しい練習を、と感じる部員もいるかもしれない。でも、オレは、このチームで勝ちたい。ぶれずに目標に立ち向かい、みんなと一緒に勝ちたい――。

その姿を目の当たりにした藤森は、自身のツイッターアカウントに綴った。

「ミーティングで主将の変化を感じた。今日の最後のような熱いスピーチと想(おも)い、4年生の覚悟をみんな待っていたんじゃないかな?今は先頭に立って道を示すときだ。リーダーの言葉と振る舞いの重要性。全員で現在地は確認できた。あとはそこにチャレンジできるか」

谷村主将(写真中央)の熱いスピーチを受け、藤森コーチが投稿したメッセージ。部員たちに届くか

フォロワーシップ。藤森が一般社団法人「スポーツコーチングJapan」で研究する組織論だ。リーダーだけが前面に出て先走りすぎると、チーム内に温度差が生じることがある。そうではなくて、リーダーは周りを引き立てながら個々の自覚を促す。全員が主体的に関わってこそ、ひずみなく組織は回る。この理論が部員たちに浸透していた。谷村はフォロワー型リーダーの役割をこなし、仲間を束ねてきた。それが変化した。

絶対的な実力不足という壁に直面し、心が折れかけながら、4年生が本音をぶつけ合って結論に達した。もう一度、壁に挑むと。だから、いまは敢(あ)えて、先頭に立って道を示すべき時なのだと。

フォロワーシップの先に

「フォロワーシップはチームに根づいている。僕の言動が変わったくらいで人間関係がぎくしゃくしたり、風通しが悪くなったりするなんて、ありえない。その確信があったから、思いを言葉にしました」と谷村。暗がりの中、みんなの表情がどこか晴れていくような印象を藤森は抱いた。「仲が良いだけで勝てるのか。葛藤を抱えていた4年生たちが、はっきりと覚悟を下級生に伝えた。多分、初めてのこと」

必勝を期した東大戦、勝てなかった。それでも、確かな転機にはなった。あとは、チャレンジできるかどうか、だ。

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東京都立大学ラグビー部は春の活動を終え、夏からシーズン本番へ向かいます。彼らは何をめざし、いかに戦うのか。選手だけ、プレーだけにとどまらない、取り組む姿勢の変化を追います。

【続きはこちら】下手くそでもできること、前主将からのメッセージ

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