ラグビー

冷めた翼が熱くなった 雨の最終戦キックオフ 東京都立大学ラグビー部物語10

練習でパスを受ける板谷光太郎。今季はゲームキャプテンを担う(撮影・中川文如)

「一人だけのものじゃないよ、試合に出るメンバーのタックルは。ベンチにいる仲間、試合に出られない仲間のタックルでもあるんだ。だから、外せない。絶対に抜かれちゃダメだ。みんなの思い、背負って戦ってほしい。このジャージーに、自分の色をつけて、良い形で次につなげてほしい」

冬の冷たい雨が降りしきる中、選手もマネージャーも肩を組み、一つの輪になっていた。それぞれの顔が雨粒と涙で濡れている。コーチの藤森啓介(36)の顔もまた、濡れていた。一言ひとこと、かみしめるようにメッセージを送る。

最後、キャプテンの福原大毅(神奈川・川和)が叫んだ。「As One!」。何かに迷うたび、部員たちが立ち返ったスローガン。ひとつになる。

下手くそでもできること、前主将からのメッセージ 東京都立大学ラグビー部物語9

2020年12月5日。東京都立大学ラグビー部のシーズン最終戦、そして2021年のチームが「あの試合を超えたい」と心に刻む80分間。関東大学リーグ戦3部順位決定戦(5、6位)、東京農業大学戦がキックオフを迎えた。

昨年12月の東農大戦。試合前の円陣で涙ぐむ選手たち(試合の写真は東京都立大ラグビー部提供)

ずっとラグビー、俊足ウィングの変化

「試合前に泣いでしまうなんて、長いラグビー人生で初めて」。当時3年生、左ウィング(WTB)の板谷光太郎は、言い知れぬ重圧に押し潰されそうになっていた。

楕円(だえん)球とのつきあいが始まったのは小学生の頃。早稲田大学の運営するワセダクラブが近所にあった。ラグビー好きな父に、有無を言わさず放り込まれた。中高一貫の城北に入学してからも、ずっとラグビー部。いまと変わらずWTBが本職だったけれど、部員不足で時にNo.8もこなした。「練習はしんどいし、コンタクトは痛いし、けがも多い。しかもチームは弱かったんだけど、ラグビーから離れられなかった。ラグビー部の仲間って、なぜか不思議と仲良くなれたから」

一浪して東京都立大学へ。泥臭さとは無縁のキャンパスライフを謳歌(おうか)しようかとも考えたが、結局、やっぱりラグビー部の門をたたいた。「気の合う仲間と出会えるんだろうなって確信があったんです」。板谷にとって、かけがえのない友達を見つけるための、かけがえのないツールがラグビーだった。

3年生になり、一般社団法人「スポーツコーチングJapan」で最先端の戦術を探求する藤森がコーチに就く。板谷にとって、ラグビーをする意味が一つ増えた。勝利をめざすということ。

対戦相手を分析する、自分たちの力量と照らし合わせる、相手の強みを消す、自分たちの強みを相手の弱みにぶつける。そのシナリオを練り、ゴールから逆算した練習を徹底する。藤森がチームに持ち込んだ方法論は、板谷にとって驚きの連続だった。「勝ちたいのなら、そこまで準備しなきゃならないんだって。勝つことが、いかに大変なのか、身に染みた」。自称、冷めた人間。「それまで、そこまで勝利にこだわることもなくて。高校最後の花園(全国高校大会)予選で初戦敗退した時も、悔しいというよりも『あ、引退か』くらいだったし」

その感覚が、勝利への準備を緻密に積み重ねる過程に触れて変わった。チームビルディングを通じて打ち解けた先輩や後輩、マネージャーのためにも、試合に出る選手には果たすべき責任があるのだと気づいた。しかも東農大戦は、勝っても負けても4年生のラストゲーム。集大成の一戦だ。負けたくない、負けられない。みんなのために、勝たなければ。中学時代から常にメンバーに選ばれ、自分が先発出場することの重みをさして感じずに過ごしてきた板谷が、そんなプレッシャーと向き合いながら迎えた一戦でもあった。

重圧の中、先制トライ

過度の緊張と重圧を打ち消す先制トライは、試合開始から10分も経たないうちに生まれた。

互いに陣地取りを優先させる手堅い立ち上がり。左タッチライン際で待っている板谷に、ボールは回って来ない。中盤でキックをキャッチしたフルバック(FB)松川拓矢(当時2年、神奈川・桐光学園)の目の前で、初めて東農大の防御網が綻(ほころ)んだ。タックルをかわす松川、相手と1対1に。左隅からフリーで駆け上がったのが、板谷だった。

東農大戦で先制トライを決める板谷

パスが届けられる。インゴールに滑り込む。吠(ほ)えてボールを放り投げ、仲間と抱き合った。キャプテンの福原に、頭をポンポンとたたかれた。ありがとう、の感謝の意思表示。「あの大一番で、ああいうトライを取れた。人生の宝です」。自称、冷めた人間が、恥ずかしげもなく、そう振り返ることのできる瞬間となった。いま、板谷は葛藤と戦っている。

先制トライを挙げた板谷(11)に駆け寄って祝福する選手たち

チームを支えてきた4年生が抜けた。1年生から主力を担ってきた板谷が「4年間で群を抜いて厳しい」と認めざるを得ない戦力。関東大学リーグ戦3部優勝、2部昇格という目標は「正直、かなり遠い」。体を強くするため、ウェートトレーニングのみならずサプリメントの勉強を始めた。ゲームキャプテンとして憎まれ役を買って出なきゃとも思う。「みんなでうまくなるため、ちょっとでも気になることがあれば、厳しく指摘しなきゃいけないなって。僕の性格上、そういうの、あまり好きじゃないんですけど……」

楽しさと強さのはざまで

仲の良い集団であり続けること。高い目標を掲げ、自分たちの限界に挑戦すること。言い換えれば、楽しさと強さ。東京都立大学ラグビー部は、その両立に挑んでいる。だから、好きじゃなくても、やらなきゃならない。ともすれば人間関係がギスギスしかねないリスクを負ってでも。「『なあなあ』じゃ、ダメなんです」

練習後に談笑する板谷(左)と藤森啓介コーチ(撮影・中川文如)

そこまで根詰めて板谷が考えるのは、あの東農大戦があるからだ。人生の宝を手に入れることができた一戦。勝つことがいかに難しいことか。体感し、クリアできた一戦。もう一度、あの高みに達し、さらなる高みへと突き抜けたい。自らが最高学年となった、いまのチームで。

「振り返れば、あの試合、最終的な勝因は『気持ち』だったと思うんです。みんな、熱かった……」

熱、また浸るために。

話を戻そう。板谷のトライをきっかけに、試合は動き出す。ここぞとばかりに東京都立大学は畳みかける。畳みかけたのだけれど、勝負を決めるまでには至らず、やがて最大のピンチを招いてしまう。

順風も逆風も、ある一人の選手から吹いていたのだった。

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東京都立大学の体育会の一つラグビー部。彼らは何をめざし、いかに戦うのか。選手だけ、プレーだけにとどまらない、取り組む姿勢の変化を追っています。

【続きはこちら】「後輩たちは、見ているよ」4年生の在り方とは

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