陸上・駅伝

連載:M高史の陸上まるかじり

中京大OGのユニクロ・吉川侑美選手、1500mからマラソンまで多種目に挑むわけ

ユニクロ女子陸上競技部の吉川侑美選手。実業団10年目を迎え、さらに進化を続けています!(写真はすべて本人提供)

今回の「M高史の陸上まるかじり」は、ユニクロ女子陸上競技部・吉川侑美選手(31)のお話です。今年の日本選手権では1500m、5000m、10000mの3種目で入賞を目指し、1500mと10000mで7位入賞。5000mは9位と入賞にあと一歩届きませんでしたが、実業団10年目を迎え、さらに進化を続ける吉川選手にお話をうかがいました。

バスケから陸上の道へ

愛知県出身の吉川選手は小学校からバスケットボールをしていて、中学校でもバスケ部でした。「ずっと楽しくバスケをやっていたのですが、バスケ部に所属しながら陸上の大会の時だけ800mに出場していました」。陸上の大会では800mで県大会にも出場していたそうです。

高校は桜花学園高校(愛知)へ。「(桜花学園は)バスケの名門ということで、せっかくならバスケをやろうかなと思ったのに、一般入部ができなかったんです。体を動かしたくて陸上部に入りました」。バスケ部に入れず、陸上部に入部した吉川選手でしたが、当時、桜花学園では長距離部員が不在で短距離がメインでした。

桜花学園高校時代の吉川選手(後列右から3人目)

吉川選手も短距離の練習をしながら800mと1500mをやっていましたが、高2から400mと800mに種目変更。4×400mリレーにも出場していました。800mでは2年生、3年生と2年連続でインターハイに出場しましたが、「高校時代はのびのび楽しくやっていたので、全国に行けて満足でしたね。高校で400m、800mで楽しく動かしてスピードをつけてることができたことは今につながっていますね」。仲間にも恵まれて、楽しく充実した高校時代だったと振り返ります。

東海高校総体800m2位となり、インターハイ出場を決めました!

中京大学で杜の都出場

高校卒業後は中京大学に進み、長距離ブロックへ。長距離ブロックでは驚くことばかりだったそうです。「高校時代はのびのびやっていたので、雨が降ったら練習がなかったんです(笑)。大学に入って雨の日はてっきり練習がないと思って、授業が終わって帰ったら先生から電話がきまして『侑美どうした? 体調悪いのか?』と(笑)。長距離は雨が降っても練習があることを知りましたね!」

中京大学時代の吉川選手(中列の右から4人目)。写真は全日本大学女子駅伝出場時のもの

さらに「(高校時代の)短距離はやっても10分ジョグとかだったのですが、長距離では初めての練習で60分ジョグでした。どうやって60分走ろうと……そこからのスタートでした(笑)。本当に長くて、どこを走ればいいのか、何を考えて走ればいいのかという感じでした(笑)」。駅伝に向けて練習量も増え、慣れるまでに時間がかかったそうです。

徐々に距離にも対応し、全日本大学女子駅伝(杜の都駅伝)には1年生で4区、2年生で1区、3年生で3区を走りましたが、「順位はよくなかったですが、のびのび走らせてもらっていましたね。まずは行けることだけで満足していて、戦うということを考えられなかったです。同じ東海地区の名城大学は雲の上の存在でした」。駅伝では全国で戦えなかったものの、トラックでは3年生の時に3000mSCを始め、4年生の時に日本学生個人選手権2位という成績をおさめました。

4年生の春には日本学生個人選手権3000mSCで2位になりました

その後、故障により半年ほど走れない期間がありました。「故障している時期はマネージャーも経験しました。タイム計測や給水など、外から見るのと一緒に走るのはやっぱり違うと思いましたね。サポートの気持ちも経験して、スタッフも声かけなど大変なんだなと感じました」。サポートする側の経験は競技人生にもプラスになっているそうです。

のびのびから結果にこだわる陸上へ

大学卒業後はユタカ技研で2年間、資生堂で4年間、そして現在はユニクロ女子陸上競技部で競技を続けています。

「大学の時は決して強い選手ではなかったですし、実業団に進んでからも最初は大きな目標を当時は持っていなくて、『自己記録を更新できたらいいな』というくらいの気持ちでした。自分の転機となったのが、『3000mSCでリオオリンピックに出場したいな』という思いがポンっと頭の中に出てきた時です。陸上をやるならそれくらいの気持ちを持ちたいと思いましたし、今までのびのびやってきた陸上よりももっと結果にこだわりたいなと思い始めました」。大学3年生から始めた3000mSCでオリンピックに行きたいという思いで、スイッチが入りました。

「2度の移籍を経験したからこそ、ユニクロに来てからは練習に対して、普段の生活に対して、意識的に変えようと思いました。口に発することで責任を持つようにしました。たくさん考えるようになりましたね。練習に対してもキツい練習をキツいと思わないようにしていました」。キツい練習をキツいと思わないようにすることとは?

「設定タイムを言われても『キツいな、長いな』と思ってしまうとそれだけでキツいので、出されたメニューに対してスタッフは私ができるギリギリのラインを攻めてくる、できない練習は出してこない、出されたメニューは多分できるんだなと思ってやっていましたね」

最初はできないことの方が多かったそうですが、「今度はプラスもう1本できるようになればいいやと、失敗もプラスに考えるようになって、それが少しずつ身について、最終的にキツい練習もきっちりできるようになりました」。心身ともに成長を遂げて、2020年の日本選手権では3000mSCで6位入賞。自身初の9分台。翌年も8位入賞と2年連続で日本選手権入賞も、吉川選手の中で葛藤があったそうです。

日本選手権3000mSCでは2020年から2年連続で入賞を飾りました

「大学から始めた3000mSCで東京オリンピック出場を目指していましたが、届きませんでした。3000mSCは一番やりたい種目なのに、一番結果につながっていない種目だとずっと思っていたんです。1500mや5000mのタイムでは勝っている選手にも3000mSCになると負けてしまうことがよくあって、自分の中でももしかしたら向いていないのかもと引っかかっていました。昨年までは東京オリンピックのためにやろうと監督とも話をしてずっとやってきましたが、もっと自分に向いている種目があると思って新しいことに挑戦することにしました」と、新たな一歩を踏み出しました。

日本選手権3種目入賞への挑戦

今年の日本選手権では「1500m、5000m、10000mの3種目で入賞」を新たな目標を掲げました。

「今年で32歳なのですが、どれか一つ極めようとしても、トップの選手に勝てるかは正直厳しいかなと思っています。例えば1500mで田中希実選手(豊田自動織機)に勝つとか、5000mや10000mでトップを目指すとして田中選手や萩谷楓選手(エディオン)、廣中璃梨佳選手(JP日本郵政グループ)に勝つとかは、現実的に今からだとなかなか難しいと正直自分でも思っています。その中でもいろいろな種目に挑戦してどの競技でも上位に入っていったらかっこいいなと思い、今年の日本選手権は監督にお願いをして3種目で入賞を目指すことにしました」

5月開催となった10000mでは32分18秒01の自己ベストで7位入賞。6月の1500mでは4分17秒47で7位入賞。5000mでは15分33秒52と自己ベストではありましたが、順位は9位。「5000mは9位で惜しかったですが、しっかり3種目とも戦えたかなと思います」と、悔しさはあっても納得の3種目挑戦となりました。

今年の日本選手権では3種目入賞に挑戦しました

スピードを生かしてマラソンへ

トラックだけではなく駅伝やロードなど幅広い距離に対応を見せる吉川選手。世界ハーフマラソンの代表選考会となった昨年の山陽女子ロードレースのハーフマラソンでは、1時間10分07秒の5位(日本人1位)となりました(2022世界ハーフマラソンは延期の末に中止)。「スピードも長い距離も好き、どちらも対応できると思います」と、1500mからハーフマラソンまで幅広い種目で活躍を見せています。

これだけタフに種目をこなせる秘訣(ひけつ)について、「よくご飯を食べることですね! 走る練習以外にもウェートトレーニングや体幹など補強トレーニングも大事にしています。体が強くなって、練習も長い距離に抵抗なくできています。たくさん練習もできて、その分たくさん食べて、回復もできているので、大きな故障がないのが私の強みかなと思います」と、自身の強みを分析されました。

たくさん食べて、しっかりトレーニングすることで、好結果に結びついています(写真右が吉川選手、左が長沼監督、写真はユニクロ1年目のもの)

競技に打ち込むためにはリラックスする時間も大切ですね! 吉川選手の場合は「合宿に行ってない時は毎週日曜日がお休みをもらえるのですが、ディズニーが好きなので、ディズニーに行って気分転換をしたりしています。あとは休みの日は朝、目覚ましをかけずに寝るのがリラックス方法です(笑)。あとはディズニーのデザインのネイルをしてもらったり、趣味でビーズでアクセサリーを作ったりしています」。体をゆっくり休め、好きなディズニーやオシャレを楽しむことで、また競技の方にも打ち込めるんですね!

ディズニーが大好きという吉川選手。休日にリフレッシュすることで、競技もまた頑張れます!

また、ユニクロ移籍後にさらに自己記録を更新し続けられる理由について、「監督に勝つこと」とユニクロ女子陸上競技部・長沼祥吾監督のお名前を挙げられました。「監督に勝つこと」とはどんなことなのでしょうか?

「監督はどんな話をしても、陸上関係の話はもちろん、最近のニュース、スポーツ、政治経済等、様々な分野で何を質問をしても答えが返ってくるんです! 私が監督に勝る話といえばディズニーの情報だけで(笑)。どうしたら監督に勝てるかと考えたところ、監督の出すメニューは量も質も今までやってきたものを覆すくらいハードですが、だからこそ『監督の出されたメニューを設定ペース通り、設定以上にできたら、私の勝ちだ!』と勝手に私が戦いをしているんです!」。特に大事な練習ができた時は、監督からも「Good job!」や「Perfect!」と言われるそうです。「いつか『Excellent!』を出したいなと思っています(笑)」と、吉川選手はさらに高みを目指しています。長沼監督との信頼関係も伝わってくるお話ですね!

ユニクロ女子陸上競技の皆さんと(前列左から3人目が吉川選手)

今後の目標については、「マラソンにチャレンジしたいですね! 来年のどのマラソンかはまだ未定ですが、MGC(マラソングランドチャンピオンシップ)出場権を一発でとりたいです。1500mからハーフまで挑戦してきて、早く走りたいなという気持ちです。私よりも年上の選手が頑張っている姿を見て、私ももっと結果を出したいです。今のトラックのスピードが生かせるうちにマラソンにつなげたいですね! もうワクワクで楽しみでいっぱいです!」と、明るく笑顔でマラソン挑戦について話されました。マラソンで現状打破できた時には、長沼監督からの「Excellent!」の言葉が聞けるかもしれませんね!

1500mからハーフマラソン、そしてマラソンまで! スピードを生かしてマラソンでの活躍も期待される吉川侑美選手の挑戦に注目です!

M高史の陸上まるかじり

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