アメフト

連載:OL魂

東北大・高守悠太 自然科学部出身のセンターは仙台でアメフトに出会って変わった

東北大のOL高守(71番)は1年生から試合に出て、タッチダウンを奪ってもOLがまったく目立たないことに驚いたそうだ(すべて撮影・篠原大輔)

アメリカンフットボールの全日本大学選手権は11月16、17日に2回戦の2試合がある。東北大学ホーネッツ(東北学生、仙台市)は新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止となった2020年を挟んで12年連続の出場。17日に宮城・角田市陸上競技場で広島大学(中四国)に勝ち、関西学生リーグで同率優勝を飾った立命館大学に挑もうと意気上がる。OL(オフェンスライン)の高守悠太(2年、清水東)は昨年のルーキーイヤーからオフェンスの最前線で体を張ってきた。

「高校時スポーツ」の欄に「自然科学」の4文字

高守は身長185cm、体重118kgの大きな体で、OLが横に5人並ぶ真ん中のセンター(C)を務める。大半のオフェンスのプレーは高守が5yd後ろのQB(クオーターバック)にボールをスナップすることから始まる。

私が取材に訪れた11月4日の東北学生リーグ優勝決定戦では、高守のスナップが何度か上へ左右へと乱れた。35-14で東北学院大学を下して選手権進出を決めた試合後、高守にそれを指摘すると、「はい」と苦笑いでうなずいた。「遠くまでブロックにいくときに、動きながらのスナップがちょっとズレちゃって。1回ズレると焦っちゃって、うまくいかなかったです」。まだフットボール歴1年半、ホーネッツの71番は発展途上にある。

高守はこうしてスナップを出しつつ相手にぶつかっていく

東北学生リーグの大会パンフレットのメンバー表には「高校時スポーツ」の欄がある。東北大は54選手中「なし」が5人。いわゆる「帰宅部」だったり、文化系の部活だったんだろうなと想像した。そして目を引いたのが「自然科学」の4文字だ。「スポーツちゃうやん」と心でツッコミを入れながらも興味を持った。それが大男の高守だったから、一気に心をつかまれた。

高校に進むとき「運動はもう向いてないな」

高守は静岡から仙台へやってきた。出身の県立清水東高校はかつてサッカーの超強豪だった。高守が言う。「静岡県民なんで小学校のころにサッカーもやってみましたけど、あまり得意じゃなくて。バレーボールを始めて、中学までやってました」。なぜ高校では続けなかったのか。「中学でやりきって、運動はもう向いてないなと思って」。面白い男だ。

高校時代、物理班の同期は4人だった

なぜ自然科学部を選んだのか。「もともと物理が好きで、将来的にそういう職に就こうと思ったので」。この部には物理班、化学班、生物班、地学班があった。高守の選んだ物理班は実験をしてレポートを書いたり、中学生向けに実験講座を開いたり。3年生のときには千葉大学が主催する「第16回高校生理科研究発表会」に参加し、「ミズクラゲの流動パラフィンでの体液置換による保存方法の研究」という生物分野の発表で奨励賞を受けている。

自然科学部で一番心に残っていることは? 「なんもないですね」。正直でいい。「部室で集まってトランプの大富豪をやりまくったり、始業から終業まではスマホの電源を切るっていう決まりなんですけど、休み時間にこっそり部室でゲームしたり。そんなのが多かったですね」。清水東高校には改築したての新校舎と旧校舎があった。物理班の部室は旧校舎にあったそうだ。「旧校舎はめっちゃ古いんですけど、その代わり自由で遊び放題な感じでした」。なんとなくイメージできるから面白い。

友だちができそうだと感じたからアメフト部に入った

アツい話を浴びて、ホーネッツへ

清水東高校のOBで東北大工学部材料科学総合学科の教授をしている人がいて、高守が高校生のときに出張講義に来てくれた。その際に興味を持ち、その教授から学びたくて東北大工学部が第1志望になった。そして現役で合格。「でも、その先生が今年で定年退職で……。研究室をどうするか困ってます」

入学してキャンパスを歩いていると、「デカいね」と声をかけられた。アメフト部の人だった。高守は受験勉強の時期に太り、体重は100kgほどあった。会うたびに勧誘された。最初はやりたくなくて逃げ回っていた。3、4回食事をおごってもらって、めちゃくちゃアツい話を浴びて、高守は入部を決意した。「静岡から来て友だちが全然いないんで、大きいグループに入って友だちがいっぱいできそうっていうのがデカかったです。あとは体を生かせそうだったし」

プレー間のハドルが解けると、OLの5人は最前線にセットする

最初からラインになった。コンタクトスポーツは初めてだったが、不思議と当たりに恐怖感もなかった。OLというポジションが「自分に合ってるかもしれない」と感じた。秋のシーズンが始まり、リーグ初戦でセンターの先輩が大けが。早くも高守に出番が回ってきた。そこからスターターで試合に出ている。相手のDL(ディフェンスライン)やLB(ラインバッカー)がどう動いてくるか分からず、ブロックするだけでも難しいのに、センターにはまずスナップという大仕事がある。ミスが許されないため、高守は練習前や練習後に手の空いている人にお願いして、スナップを受けてもらった。それでも試合数が少なくて経験値を積み上げにくいこともあり、不安なくスナップできる域には達していない。

スナップが安定すれば、もっとブロックに集中できて強くなれる

年明けの成人式が楽しみ

高守は両目の下にまぶしさを軽減するとされる「アイブラック」を塗って東北学院大戦に出ていた。試合前、4年生OLの江上遼太郎(八戸)に塗ってもらった。江上はこの試合をけがで欠場したが、身長185cm、体重130kgでホーネッツ最強のOLだ。高守は「江上さんの分まで」との思いで試合に臨んでいた。

目指すOLもずっと江上だ。「強いです。自分とはスタートが違うし、動きにキレもある。もっとまねしないとな、って思ってます。スタートをもっと攻めなきゃと思ってます」。そのためには何よりもまず、百発百中のスナップを出せるようにすることだ。

ランプレーで体を張って穴をこじ開ける。そしてOLの5人でオフェンスを盛り上げていく。そんな瞬間にこのポジションの楽しさを感じるという。最初はあまりにも目立たないことに驚いたこともあったが、もうそれを上回る喜びに出会えている。「1年生から出してもらってるんで、4年になったらOLだけでなくオフェンス全体を引っ張っていけるようになりたいです」

年明けの成人式で静岡の友だちに会うのが楽しみだ。「デカくなったねー、って言われるでしょうね」と笑う。その前に広大に勝ち、立命館に挑戦だ。自然科学部の部室でゲームに明け暮れていた少年は、アメフトを始めて変わった。

この写真では少しこわそうだが、普段は笑顔のいい好青年だ

OL魂

in Additionあわせて読みたい