現役以上の喜びは毎日でも味わえる 仙台89ERS GM志村雄彦・4完
大学生アスリートは4年間でさまざまな経験をする。競技に強く打ち込み、深くのめり込むほど、得られるものも多いだろう。学生時代に名をはせた先輩たちは、4年間でどんな経験をして、社会でどう生かしているのか。「4years.のつづき」を聞いてみよう。シリーズ6人目は昨夏、バスケットボールBリーグ2部(B2)に所属する仙台89ERS(エイティナイナーズ)のゼネラルマネージャー(GM)に就任した志村雄彦さん(36)。最終回の4回目はGMとして、そして元選手として目指していることについてです。
地道にやり続けて、いい結果を出す
仙台89ERSの2018-19シーズンは東地区2位で終幕する。B1昇格をかけたプレーオフにはあと一歩届かなかったが、志村さんは冷静に今後を見据えている。
「今年の目標は確かにB1に上がることでしたが、5年後の日本一、そして今後もクラブに継承されるようなカルチャーづくりにも重きを置いてます。いまは結果が伴わないという代償を支払って、若い選手たちに経験という投資をしている段階です。そこにブレはありません」
89ERSが目指すカルチャーとは一体どんなものなのか。志村さんに尋ねると「粘り強さ、泥臭さ」という言葉が返ってきた。秋田県立能代工業高校、志村さんが主将として日本一に導いた仙台市立仙台高校(宮城)、明成高校(宮城)といった東北の強豪校は、粘り強く守り、こぼれ球に果敢に飛び込み、コツコツ得点を重ねるスタイル……。まさに泥臭く、粘り強いプレースタイルで勝ち星を重ね、多くのバスケファンの共感を呼んだ。
「地道なことをやり続けて最後はいい結果を出す。本気でやる姿でファンの感動を誘う。泥臭く戦うことがかっこいいと思える……。仙台、東北に根づいたスタイルが、僕らが目指すところだと思います」
志村さん自身が、まさにこのようなプレースタイルで偉業を達成してきただけに、有無を言わせない説得力がある。
引退した選手に新しい道を
もう一つ、個人としての目標もある。現役生活を終えた選手たちのために新しい道をつくることだ。
「Bリーグは順調に発展してますけど、選手は毎年引退していきます。そのあとのキャリアで、僕のような道もあるんだというのを見せたいですね。僕が成功することで、GMという立場があとに続く選手たちの選択肢になったらうれしいです」
現在、Bリーグで純粋なGMを置いているクラブはあまり多くない。社長やヘッドコーチがその役割を兼任しているところもある。しかし志村さんは「やるからには責任があるところでやりたい」との思いから、引退後すぐに、責任の重いこのポジションに立つことを志願した。「もちろん、勉強しなくてはならないことはたくさんあります。社会人経験も(慶應を卒業し新卒入社した)東芝時代の数年しかありませんから、たくさんの方に迷惑をかけていると思います。それでも、この仕事を確立させていきたいという気持ちは強いです」
打ち続けなければシュートは入らない
筆者は少し前に、卒業とともに競技から離れる大学生と話す機会があった。その選手はこれからの人生で、バスケ以上に感情の高ぶりや、やりがいを味わえるようなことを見つけられるか心配だと話していた。その話を向けてみると、志村さんはとても温かい声で話し始めた。
「実は現役を引退するときに、チームのオーナーに似たようなことを言われたんです。『タケちゃん、プレーヤーが味わう喜びや感情ってすごいものだから、やめた後にそれ以上のモチベーションがなくなる人も多いよ』って。でも僕はそういうのが全然ないんですよね。分からないことやできないこともたくさんあるんですけど、それが楽しいんです。交渉がいまくいかなかったときもありますし、営業に行ってそっぽを向かれることもありますよ。でも、どうやったら振り向いてもらえるんだろうって考えることが楽しい。現役以上の喜びは、毎日だって味わえますよ。自分が前向きに動いて、どんどん突き進んでいければ」
そして、現役の学生プレーヤーたちにもエールを送ってくれた。
「みんな、結果を求めたがると思います。僕も昔は『努力すれば結果が出る』って思ってたし、高校・大学時代はそれを実現できましたけど、その後は結果が出てません。でも、努力をしたら、その報酬として必ず成長できるということは実感しました。人生は『シュートが入った/入らない』だけじゃないんです。シュートを打ち続けたことで最後の1本が入るかもしれないし、打ち続けなければシュートは入りません。結果にあせらず努力し、チャレンジしてほしいですね」
外したシュートは次のシュートの成功に続く。志村さん自身が身をもって実感してきたことだろう。プレイヤーからGMへ。立場は変われど、志村さんはいまも変わらず大きな推進力で自らを突き動かしている。