大学バスケ

連載:監督として生きる

いま、ベストを尽くす 東医保大女子バスケ・恩塚ヘッドコーチ(下)

恩塚HCは常に「今日の練習」に意識をめぐらせている

東京医療保健大学女子バスケットボール部・恩塚亨ヘッドコーチ(HC、39)の座右の銘は「いまできることのベストを尽くす」。その言葉の通り、恩塚HCの目は過去でも未来でもなく「いま」を見ている。「あまり先のことを考えられないんですよ。いまは『今日の練習をどれだけよくできるだろうか』と『今日の練習と明日の練習をどうつなげていくか』が思考の90%くらいを占めてます」。監督就任から13年経っても、体育館へ向かうときは緊張するという。連載「監督として生きる」第5弾の最終回です。

何のためにバスケをやってるのか

「いま」から離れたところにある日本一や連覇に対しても、それほど強い思いはない。「期待に応えたいとは思うんですけど、それに向けて何をしようかということを考えたことはないです。今年のインカレ連覇もそう。『次の試合をどう勝てばいいか』くらいしか考えてませんでした」

ベストを尽くすために大切なのは、モチベーションだという。「高校は義務教育に近しいものになってますけど、大学は違う。社会に出られる実力がないから大学に進むわけですから。だから選手たちには次のステップにつながる実力を得ようとしてほしいですし、何のためにバスケをやってるのか、ちゃんと答えを持っていてほしいんです」

いまや強豪の一角となった東京医療保健大だが、入学してくる選手のほとんどは、高校時代までに大きな実績がない。インカレ初優勝の立役者となった津村ゆり子(現・東京羽田ヴィッキーズ)やユニバーシアード日本代表候補の永田萌絵(4年、長崎商業)は、高校時代に全国大会の経験がない。17年のユニバーシアードで日本の銀メダル獲得に貢献した藤本愛妃(4年、桜花学園)は、名門のベンチでくすぶっていた選手だ。

昨シーズンはけがに泣いた藤本(中央)。ラストイヤーでインカレ3連覇を目指す

彼女たちが現在のような輝きを放つようになった理由は、「何のためにバスケをやってるか」という問いに、きちんと答えを出したことにあるのだろう。藤本の場合は、高校時代のリベンジを果たすため。以前彼女にインタビューした際、決まりかけていた別の大学を断って東京医療保健大に進学したと教えてくれた。「監督の熱に負けましたね」と、藤本は笑っていた。

やりたいことに対し、自分から行動

近年は、クリニックや指導者講習会の講師として招かれ、後進の指導にあたる機会も増えてきた。無名のプレーヤー、指導者時代を経て、名コーチの仲間入りを果たそうとしているいま、恩塚HCには若い世代に伝えたいことも増えてきたという。

「いま振り返ってみると、私の勤務していた高校にNBAプレーヤーを連れてきた銀行員の方と話して、『自分も行動してみよう』と思えたのがよかったなと。若いと『あの人はすごいけど、自分とは違う。自分にはできない』って思っちゃうじゃないですか」

かつての恩塚氏もやはり、「できない」「自分とは違う」「才能がない」といった根拠のない言い訳にがんじがらめにされ、身動きの取れない時代を過ごしてきた。しかし、さまざまな人と出会い、ガムシャラにバスケと選手たちと向き合っているうちに、そんな言い訳はなくなっていた。「自分のやりたいことを、情熱をもって誰かに伝え、協力者を増やしながら行動していく。そうすると道は開けると思うんです」。力を込めて、そう言う。

呪縛から解かれた現在の恩塚HCは、どこまでも自然体で泰然自若としている。従うのは「ベストを尽くす」という信念のみ。大学生だから、女子だから。そういった枠をとっぱらい、広い視野で指導にあたっている。プロフェッショナルな接客をするサービスマンを観察するというひそかな楽しみがあるそうだが、ここで得た「かっこいい人はかっこつけてない」という持論のとおり、気どらず、背伸びせず、いい意味でオーラのない人だ。

「今後の目標は何ですか? 」。何度も同じ質問をされてきたが、恩塚HCの答えは「ベストを尽くす」以外にない。その中で、自分の夢を叶えるための賢さと強さを兼ね備えた学生を社会に送り出したい……。そんな風に考えている。

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