大学陸上・駅伝

連載:いけ!! 理系アスリート

地道にコツコツ、医学の勉強と競歩は似てる 名古屋大・中川晴子(下)

「競歩って頭脳戦なんです」と中川

連載「いけ!! 理系アスリート」の第13弾は、名古屋大学医学部医学科4年で陸上部の中川晴子です。中川は陸上部と医学部陸上部の両方に所属しながら、競歩に取り組んでいます。2回の連載の後編は、医学部の勉強と両立しながら競技を続ける秘訣や、いまの夢についてうかがいました。

前編「自由な高校で培った文武両道の歩み」はこちら

時間がないならメリハリをつけて

医学部陸上部では練習が週1日、そして1年生の秋に入部した全学の陸上部の練習は週4日。陸上部に入るとき、医学部陸上部をやめる選択肢はなかったのかと尋ねると、「医学部ってつながりを大事にするので、やっぱり入ってた方がいいかなって思ったんです。先輩や友だちからいろんな話を聞けるので、学業と部活を両立するのにも役立ってます」と中川。試験前には、お互いに助け合っているそうだ。

1年生の間は陸上部の活動拠点がある東山キャンパスでの授業が多かっため、移動の必要がなかった。しかし2年生になると鶴舞キャンパスでの解剖実習が始まり、立ちっぱなしの実習を終えてから部活に向かう日々が始まった。「時間通りに終わるときもありましたけど、最初の方は慣れてなかったので夕方6時ぐらいまでかかってました。それから東山に行くっていうのが結構しんどかったです」。部活に遅れて参加する日々が続く自分自身を「遅刻魔」と名付けた。

幼いころ、中川はアレルギーと喘息のために通院していた。その経験から、将来アレルギーをなくすための研究ができればと考えていた。高校の授業の中で興味をもっていた生物学に加え、免疫学についても自発的に学んできた。夢は医師よりも研究員。なかなか珍しい道だけに、卒業してすぐにたどり着くのは難しそうだ。だから、まずは医師を目指している。

3年生の後期には研究室に配属され、一日中実験や研究に取り組んだ。コアタイムは午前8時50分から午後4時10分までとなってはいたが、時間通りに終わることはなかなかない。夜7時を過ぎることや、土日も実験ということもざらにあった。そうなると平日の練習にはもう間に合わない。そんなときはメリハリを意識して、別の日に一人で練習した。「練習もいろいろあるので取捨選択して、強度のある練習を、意味も考えながらやってました」

全学の陸上部には競歩の選手が5人、さらに一緒に練習しているほかの大学の選手も含めて全員で6人いる。4年生になった中川は幹部として、同期と二人でパートを引っ張っている。昨年からは技術指導をしてくれるコーチが週1日で来てくれるようになった。

競歩は頭脳戦、それが醍醐味

高校生の競歩は5000mがメインだが、大学生になると10kmや20kmと一気に長丁場になる。中川は「長い方が競歩らしくて楽しい」と言いきる。「5000mだとパーッといってパーッて終わる。長くなってくると、力で押し切るだけではダメです。考えながら頭を使ってレースを自分でつくります。競歩って頭脳戦なんです。生まれ持っての素質だけじゃなくて、努力でけっこういける部分があります。それが競歩の醍醐味であり、競歩っぽさかな」

中川が目標にしているのは自己ベストの更新、全日本インカレの参加標準記録突破、そして日本選手権の上位入賞だ。とくに毎年2月に開催される日本選手権(20km競歩)は、2年生の時に20位、3年生の時に13位と、徐々に順位を上げてきた。その勢いで入賞を目標に臨んだ3月の全日本競歩能美大会(20km競歩)は、苦しいレースとなった。

全日本競歩能美大会では思い描いていたレース展開ができなかった

当日は雨。ときおり強い風も吹いていた。1km5分ペースで刻めば1時間40分強で入賞ラインだと考えていた中川は、5分を刻みつつ、学生の8位集団の中で歩いていた。しかし10km手前で苦しくなった。集団のペースが上がったが、後半のために力を温存しようと考えた中川は追わなかった。しかし、そのままズルズルと後退しただけだった。1時間45分59秒で総合30位、学生では10位に終わった。「落ちないのが私の強みだったのに、今回は風も強くてそれでけっこうやられてしまいました。来年こそは入賞したいです」。レース直後、中川は悔しさを押し殺しながら言った。

背中で示してくれた5年生

医学部は6年制のため、5年生も競技は続けられる。しかし名大では前例がほとんどなく、中川は来年からどうするか悩んでいた。そんなときに背中を押してくれたのが、中川を全学の陸上部に誘ってくれた、医学部医学科5年生の真野悠太郎(滝)だった。真野は高校時代にインターハイで400mハードル(H)3位という実力者で、大学でも記録を伸ばし、110mHで全カレ標準を、400mHでは日本選手権A標準を切っている。そんな真野に中川は「実習されてる姿をよく見かけてて、忙しい中でもいい結果を出してる真野さんを素直にかっこいいと思いますし、私もそうありたいなって思ってます」と語る。

先輩の姿を見て、中川も競歩をやり切る決心がついた

もう一つ、中川には新しい目標ができた。医学部陸上部が目標にしている西日本医科学生総合体育大会(西医体)に、来年から競歩が追加されることになった。中川はこれまで西医体では1500mや3000mに出場していたが、来年の西医体では初代の競歩チャンピオンを狙っていく。「優勝すれば自分の記録が大会記録になりますから、十数年は破られないぐらいの記録をつくりたいです」と勇ましい。

今年の11月には臨床実習のための試験を受け、来年1月には臨床実習が始まる。「11月からもっと忙しくなるだろうけど、でも競歩で戦うと決めたからには忙しいことが前提なので、頑張るとしか言えないです。医学部の勉強って本当にコツコツとやるものなので、それが競技にも似てるかな。単純作業の繰り返し。でも最後まで気持ちを切らさずにやりきりたい」

穏やかな表情と、か細い声ではあったが、中川の強い言葉から断固たる決意を受け取った。

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