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連載:監督として生きる

アテネに届かなかった0.8秒は世界への意識の差 駿河台大駅伝部・徳本一善監督3

2004年の朝日駅伝で初優勝のテープを切る日清食品時代の徳本さん(撮影・溝越賢)

10月26日の箱根駅伝予選会に出場する駿河台大は、法政大学時代に箱根駅伝のスターだった徳本一善(かずよし)監督(40)の下で力を蓄えてきました。連載「監督として生きる」の第9弾は徳本さんです。4回の連載の3回目は実業団選手として目指したオリンピックについてです。

法政のエースとして見た箱根駅伝の天国と地獄 駿河台大駅伝部・徳本一善監督2

「オリンピックに出る」という目標では甘い

徳本さんは2002年春、日清食品(当時)に入社して競技を続けた。2年後に迫っていたアテネオリンピック出場を目標に設定した。もともと800mや1500mの中距離を専門にしていたが、法大では箱根駅伝で優勝するために長距離に比重を置くようになっていた。これが失敗だった、と徳本さんは振り返る。

「いま思えばですけど、大学では1500mに特化しながら5000mで記録を狙えばよかったと思うんです。箱根はそこで活躍するというより、出るだけで。学生のときからオリンピックが見えてるか見えてないかという差は大きいと思います。自分のやりたい種目を突き詰めた方がよかったな、と僕は思いました。ただ当時は、箱根以外の選択肢が僕にはなかった」

アテネまでは2年しかない。日清食品は徳本さんを迎えるにあたり、「好きに競技をしたらいい」と言ってくれた。徳本さんは母校の法大を練習拠点にした。見習ったのは同じ広島出身で法大の1学年先輩である為末大さん(41)のスタイルだった。「あの人はずっと一人でコーチングしてたんですよ。自分を客観的に見ながら、一人で練習メニューを考えて『ああでもない、こうでもない』って取り組んでました」。徳本さんは、ずっと近くで見てきた為末さんの姿に共感し、実践するようになった。

03年日本選手権の5000mでは13分40秒69で優勝。翌年も13分40秒68で連覇した。ベストは03年に13分26秒19まできていた。その後もアテネオリンピックの参加標準B記録(13分25秒40)を切るためにレースを重ねたが、この0.8秒が届かなかった。徳本さんはその原因を「目標設定の甘さ」だと振り返る。

「僕は『オリンピックに出る』のが目標でした。マインドセットの見積もりが甘かったな、って思ってます。もっと『世界で勝負したいと思わないといけなかったのに、なんで『出たい』どまりだったんだろう……。それが人生における最大の汚点ですね。0.8秒の差は、そこがすべて。『世界一をとる』と言って世界陸上で2度銅メダルをとった為末さんとの決定的な違いでした」

「目標設定の間違いに気付かせてくれる人はいなかった。それは僕の運でもあったのかな」(撮影・小野口健太)

2度目の東京マラソンを目指したが……

アテネオリンピックへの挑戦が終わると、すぐには次の目標を思い描けなかった。いろいろと悩んだが、結局は「オリンピックの次の目標っていったら、やっぱり4年間かけてオリンピックを目指すしかない」というところに行き着いた。ただ、本心で目指せていたかどうかは、いま思うと分からないという。無理がたたって06年にはひざを手術。「自分の道は駅伝かマラソンしかない。でもマラソンでどこまでいけるんだろうか」と思いながら、07年の東京マラソンに出場した。結果は2時間15分55秒で5位だった。その後もマラソンのために練習を続ける中で「2時間10分は切れる」という感覚があった。

同じ日清食品所属でアテネオリンピックのマラソンに出場した諏訪利成さんと比べても、自分の方がいい練習を積めているという自信があった。08年の東京マラソンに照準を合わせていたが、大会2週間前、腕の長母指屈筋(ちょうぼしくっきん)に炎症が出た。その腫れがひかず、2度目の東京マラソンはなかった。2度とやりたくないと思うほど自分を追い込んだ練習を積んだ後のことだった。12年のロンドンオリンピックはもう見えず、12年12月に防府読売マラソンを走り、事実上引退した。最後のマラソンは2時間14分48秒で4位だった。

2度目の東京マラソンのスタートラインには立てなかった(撮影・小野口健太)

その前年の11年には駿河台大駅伝部のコーチに、そして12年4月には監督に就任していた。法大時代、主将としての責任に悩まされた徳本さんだが、「いまの方が悩んでます。学生を教えるっていうのは、すごくしんどいことなんですよ」と言う。

「いつか世界で戦える選手を育てたい」 駿河台大駅伝部・徳本一善監督4完

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