サッカー

連載:サッカー応援団長・岩政大樹コラム

選手も自由にSNSで発信できるいま、その発信は何のためであるか

時代は変わり、サッカー選手自身も気軽にSNSなどで発信できるようになったものの……(すべて撮影・小澤達也)

新型コロナウイルスの影響が長く続く中、様々な発信が活発に行われています。時代は変わりました。10年ほど前にはサッカー選手がSNSなどで発信をすることはご法度でした。しかし、これからは当たり前に選手が自ら発信をし、ファンの方と交流をしていくのでしょう。自分で考えていることを言葉にして発信をする。素晴らしいことだと思います。

“何事も一生懸命”を貫き、上武大学のアドバイザーとして新たな一歩を
島で育ち、勝つためのサッカーを悟る 元日本代表・岩政大樹さん1

何気ない言動が流れを、結果を変えるのがプロの世界

ただ、気になることもあります。その発信は何のためであるか、ということです。プロサッカー選手は個人事業主ですが、チームと契約した時点で、チームの勝利のためにすべてを捧(ささ)げる必要があります。「すべてを捧げる」とは、サッカー以外のことをしていけない、ということではありませんよ。すべてを“チームの勝利のため”から逆算した言動をとらなくてはならないということです。

なぜなら、それほどプロサッカーはディテールを争うスポーツだから。何気ない言動が流れを変え、結果を変えてしまうのです。その機微を互いが突き詰めて勝負するのがプロサッカーの舞台です。

大学サッカーを経てプロサッカーに飛び込んだ選手は、相対的に、高卒のサッカー選手たちよりも発信に対する意識がとても高いと思います。おそらく、大学生活の中で様々な出会いをし、視野が広がり、社会とのつながりをよりイメージすることができているからでしょう。加えて、私もそうでしたが、同級生も社会に出てそれぞれに働いていることで、サッカー選手でいることの意味を見いだそうとする意識も高いのだと思います。それ自体は本当に素晴らしい。ただ、サッカーを探求する。チームの勝利を追求する。そのプロサッカー選手としての“本分”を決して忘れないでほしいな、と思うのです。

“まず考えるべき”は、外への発信より内への発信

これも「“発信”をすれば“本分”から外れる」という話でもないのですが、“発信”とプロサッカー選手としての“本分”とは、ときに違うベクトルを向けてしまうことがあるので注意が必要だと思います。

例えば、「ファンのことを考えると発信したいけど、チームのことを考えるといまこの言葉は外に向けない方がいい」という場面はシーズン中に多々あります。例えば、「本音を打ち明けた方がファンには喜ばれるけど、それでは自分の弱さが周囲に伝わってしまう」というジレンマもときにあるでしょう。

そうしたとき、私はプロサッカー選手であるなら、まずは「チーム」「自分たち」、つまり、内側に目を向けてほしいなと思っています。今年のJリーグ新人研修に招かれて講話をさせていただいたときに、私はすべての新人選手の前で、「“まず考えるべき”は、外への発信より内への発信」ということを伝えました。これは“どちらか”の話ではなく、“まず考えるべきこと”の話ですよ。

プロサッカー選手であるなら、まずはチームに向けた発信を

私は最近の色々なチームの練習や試合を見ていて、チーム内の意見交換や互いの情報伝達が充分ではないな、と感じています。「静かだな」と。しかしSNSを開くと、何とも雄弁な選手たちばかりなのです。その雄弁さはプロサッカー選手であるなら、まずチームのために使わなくてはなりません。どんな言葉を選び、それをいつどのように発すればチームは好転するのか。それを自分で考えてみて、相手を考えてみて、発してみて、また考える。それこそがチームに求められていることであり、サッカー選手としての経験で最も有意義なことです。

発信一つが結果に、自分の生き方につながる

何度も言いますが、「外への発信をするな」という話ではありませんよ。私はおじさんですが、まだギリギリ世の中の流れぐらいは把握しています。ただ、サッカーとはチーム内で問題を見つけたら発信し、みんなを導き、形勢を変えて、結果を求めて戦うスポーツです。それも、動いている展開の中で発信をしていかなくてはなりません。

そうしたサッカー選手だからこそできる経験をまず感じてほしいのです。私も何度もありました。「あのとき、躊躇(ちゅうちょ)したあの声がけを一言しておけば防げた」「試合の前にもっと違う話をみんなにしておけば結果は変わった」。ときに「チームのため」と選んで発した外への発信が裏目に出て、反省したこともありました。それを“強大なプレッシャー”と“明確な結果”とに向き合わされながら考えていかなくてはいけないのが、プロサッカー選手です。これが20代でできることこそが、私の人生にとって「プロサッカー選手になって良かった」と言える一番と言ってもいいことです。

大学スポーツを応援するサイトでこのような話をしたのは、これからプロスポーツに進む人もそうでない人も、社会に出て直面するであろうあらゆることにつながる話ではないかと思ったからです。「自分の本分」と「それ以外の何か」を同時にしても変には思われない時代をみなさんは生きるでしょう。それは少し新しく見えるかもしれませんが、中途半端に中途半端を重ねても中途半端にしか見えません。

では、どんな生き方を自分はするのか。それは自分で自分と向き合って決めていくしかないものであり、後悔しない生き方を自分で定めていくしかないんですよね。コロナのこの時期にたくさんの発信が見られていますが、その裏に発信には見向きもせず本分(“どこまでを本分か”という話はここでは置いておきますね)に励んでいる人もいます。どれも正解などありません。

自分の生き方とは。

こんな時間だからこそ、周りに流されないよう、自分と向き合う時間とされてください。

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サッカー応援団長・岩政大樹コラム

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