やろうと思えばなんでもできる、自分の可能性を消さないでほしい 斎藤隆4
東北福祉大学からドラフト1位で横浜大洋ホエールズ(現・横浜DeNAベイスターズ)に入団、MLBでも7年間プレーした斎藤隆さん(51)。現在は野球解説者として多方面で活躍しています。今回の「4years.のつづき」では、斎藤さんが「人生が変わった」という大学時代を中心に振り返ってもらいました。4回連載の最終回は、思いがけず投手となり活躍できたからこそ、多くの人に伝えていきたいことについてです。
「ピッチング」を教えてくれた権藤さんとの出会い
プロに入っても手探り状態の斎藤さんだったが、98年に権藤博監督がやってきてから変わった。斎藤さんにとって、はじめて出会った投手出身の監督だった。権藤さんは、とにかくピッチングをシンプルにしてくれた。「(打者が)まっすぐ待ってても、当たるかどうかわからないんだから行け!」「打率が何割とか関係ない、やるかやられるかだ」「常に五分五分の勝負だ」そんな言葉でピッチングの極意を教えてくれた。「勇気を持っていけば勝負ってできるものなんだ、アウトって取れるものなんだ、と教えてくれましたね」
権藤さんにはさらに、「枠で勝負しろ」「チェンジアップを投げろ」とも言われた。他の変化球が2次元なら、チェンジアップは3次元。それこそが権藤さんが教えてくれたことだった。だが、斎藤さんがそこから本当に「投手とは」とわかってきたのは、2005年にメジャーに挑戦してアメリカでプレーしているときだった。
「メジャーに行ってボールを操る、ということが少しずつわかってきました。投げ分けることができるようになったというか。自分が調子いい時は、まっすぐを待っているバッターに対してもまっすぐで勝てるようになりました。日本にいるときは『打者が待っている球以外でどうアウトを取ろうか』と考えてましたから。優勝した年(98年)はバッターの動きが見えてたつもりでしたが、振り返るとレベルが違ったのかなと思います」
悩んでいる時間こそ丁寧に過ごして
大学3年で投手に転向してから、横浜ベイスターズで14年、メジャーリーグ5球団で7年、日本に戻り東北楽天ゴールデンイーグルスで3年。44歳まで現役を続けた。今振り返っても本当に、大学で人生が変わったと感じる。だからこそ、いまもし伸び悩んでいる、悩んでいる人がいたら伝えたいことがある。
「何が好転していくかは、誰にもわからないので。だから、悩んでいる時間こそ丁寧に過ごしてほしいなと思います。無理をしろというわけではなく、可能な範囲で……。例えばけがをして悩んでいるときは、リハビリを丁寧にやることで、その先に違うものが待っていたり、良くなったりしますから」
そして、「自分の気持ちに素直になってほしい」とも続ける。運命に流されるままに投手となり、プロ野球選手として活躍してきた斎藤さんが、唯一「誰がなんと言おうとこうしたい」と思ったのは、2006年にメジャーに行った時だった。すでに36歳になっており、周囲のほとんどの人が止めたが、「どうしてもアメリカに行きたい」という思いを貫き通した。
「それでも周りが許さなかったら動かないし、逆に周りから押されて変わることもある。人って自分の人生を自分のものにしたがるんですけど、自分ひとりで動くことなんてないので。自分自身を分析できたり、上手に向き合っていける人がその先で好転できたりするんだと思います。一人の人生ですけど、世の中のさまざまな事柄の中で流れているんだ、っていうのは、それはメジャーに行ってから強く感じるようになりましたね」
視野を広く持って、決めつけずにいてほしい
最後に、大学生にアドバイスするとしたら? と質問すると、「そもそも俺のときと、今の大学生では違うのかもしれないけど」と考えつつ、「高校の時と比べて広い視野を持てるようになる時期でもあるし、無駄に見えるようなことでさえも社会勉強になるから、あまり自分の中で正しい、間違っているという決めつけをせずに、いろんなチャレンジをしてみる時間を取れる時期だと思います」。斎藤さんにとっても、今となっては大学時代の半分は下積みのようなものだったと振り返る。グランドにいるよりも作業をしている時間の方が多かったが、あの時間でさえも高校で練習をしすぎていた体を休養させることになっていた可能性もある、と思い返す。
「自分にとっては、いろんなことのタイミングが少しずつはまりだした時でもあったと思います。あまり『自分はこうだ』と決めつけて、自分自身を信じてあげないようなことだけにはなってほしくない。自分だけは自分の可能性を消すな、なんでもやろうと思えばなんでもできるから! っていうことだけは、しっかり伝えていきたいですね」
大学3年から投手になって、プロに入ってゆくゆくはメジャーリーグで活躍するよーー。大学入学当時の斎藤さんにそれを言っても、周りの人も、本人でさえも誰も信じなかっただろう。だが現実はそうなった。あらゆる可能性を消さなかったからこそ、「斎藤隆」の今があるのだ。
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