ラグビー

モスグリーン軍団を引っ張る和製ウィングの覚悟

5試合で5トライと気を吐く大東大のWTB土橋(斉藤健仁)

関東大学リーグ戦1部

10月28日@秩父宮ラグビー場
大東文化大(5勝)54-36(前半28-19)法政大(3勝2敗)

「出されたら負け」ライン際の強さ光る

モスグリーン軍団の勢いが止まらない。昨年実に22年ぶり8度目の優勝を果たした大東文化大は、今年も大きくメンバーは変わらない。優勝候補筆頭である。この試合も法政の高速アタックには手を焼いたが、持ち前の攻撃力を爆発させて8トライを奪い、勝ちきった。

大東文化大といえばLOアマトとNo.8タラウのファカタヴァ家の双子(ともに4年、ティマルボーイズ)らトンガ人留学生が注目されがちだが、FWにもBKにも能力の高い日本人選手が多数おり、総合力の高さが武器だ。12~1月の大学選手権でも優勝候補の一角に違いない。

今年、一気に花開いた日本人WTBが土橋永卓(4年、秋田中央)だ。法政戦でもスクラムからブラインドサイドを突いて、一発でトライを挙げた。1、2年のころはAチームで公式戦に出場することはなかったが、昨年はリーグ戦の流通経済大戦から先発に定着し、大学選手権も出場した。それでも「緊張してしまった」と、5試合で2トライと実力を出しきれなかった。

だが、土橋は「最終学年なので緊張がどうこう言ってられない。4年生という自覚を持ってプレーしたい」と、春からフルスロットル。身長170cm、体重85kgと決して大きくないが、50m6秒3の速さと強さを武器に躍動している。「出されたら負け」との覚悟で走るライン際での強さが光る。決定力にも磨きがかかっており、春季大会では5試合で5トライ、さらに今秋のリーグ戦でも5試合で5トライと気を吐いており、ルーキーのWTB朝倉健裕(1年、御所実)とともにトライを量産している。

大東文化の青柳勝彦監督も、WTB土橋に対して「人に強い、粘り腰。ボールを持ったら何かやってくれるという期待は大きい」と大きな信頼を置く。土橋はトライを取るスピードや決定力だけでなく、タックルを受けても押し出されない強さや突破力も併せ持つ。1、2年のときはWTBとしての判断力やキックされたボールの処理などが課題だったが、青柳監督も「試合をやっていくうちに感覚をつかんで、得意なところを思いっきり出せるようになった」と、土橋の成長に目を細めた。

青柳監督は「ボールを持ったら何かやってくれる」 (斉藤健仁)

ボートで鍛えられた足腰をいかして

土橋は東北のラグビーどころの一つ、秋田県の南秋田郡大潟村出身。日本で2番目に大きな湖だった八郎潟を干拓してできた土地で、小学校3年から大潟村ラグビースポーツ少年団で競技を始めた。「村にはラグビーしかなかった」と土橋が振り返る町で、子どもたちは自然と楕円球に触れ合った。土橋はすぐ、ボールを持って自由に走れるラグビーの虜になった。高学年になると野球や剣道といったほかの選択肢もあったが、ラグビーをやり続けた。

中学になると部活にも入らないといけなくなったため、ボート部に入部する。平日は八郎潟の残存湖で、4人の選手と1人の舵手が乗る「クォドルプル」で、パワーが必要な2番目の槽手としてトレーニングを積んだ。「もともとお尻が大きかったし、前進を使うので体幹が鍛えられました」と土橋が振り返ったように、足腰の強さはボートで鍛えられたものだ。

高校は県内の強豪のひとつ秋田中央に進学し、再びラグビーに専念する。高校3年時は、中心選手のひとりとしてライバル秋田工を破り、花園にも出場。2回戦で佐賀工に敗戦した試合でも2トライを挙げた。土橋にはほかの強豪大学からも声がかかったが、「トンガ人留学生の強さに憧れてたし一緒に練習したかった」と、志願して大東文化に進学した。

大学に入るとなかなか公式戦には出場できなかったが、腐らずに真面目にラグビーに向き合い続けた。土橋はラグビーを始めたころからほぼWTB一筋だというが、それにも関わらず、右耳がスクラムを組むFWの選手や柔道選手のように少しつぶれている。BKにしては珍しい。

「大学に来て、コーチに『タックルは耳を擦る感覚でやれ』と言われて、馬鹿正直に耳を擦るまでやったらつぶれました。ちょっとやりすぎましたね(苦笑)」と本人が言うように、練習の賜である。もともと持っていた強さ、速さの上に、大学に来てから4年間、努力で培ったタックル力が相まって現在の土橋を支えている。

ディフェンスでもチームに貢献(斉藤健仁)

今年の大東文化はFWとBKが一体となり、ボールを左右に動かすだけでなく、オフロードパスも多用して縦にボールを動かす"つなぎのラグビー"を指向。十分にそれを体現できている。「Aチームに定着して何をすべきかわかってきた。自分の強さを生かして勝利に貢献したい」と土橋が言うように、強いランも気の利いたプレーも得意。体は大きくないが接点にも強い11番の存在感は、日に日に増すばかりだ。

土橋は大学卒業後もラグビーを続けるつもりであり、下部チームから声はかかっているが、トップリーグからはまだ誘われていないという。本人はWTBとして当然、「トライ数は気にしている」と言う。このままトライ数を増やしていけば、きっと道は拓かれるはずだ。

11月になると大東文化は現在、優勝争いを演じている流通経済、東海とのビッグマッチがあり、その後には大学選手権が控える。土橋の一つひとつのトライが、モスグリーン軍団の関東大学リーグ戦連覇だけでなく、24年ぶりの大学王者へとつながっていく。

in Additionあわせて読みたい