神宮球場へ行こう 志村亮・4完
大学生アスリートは4年間でさまざまな経験をする。競技に強く打ち込み、深くのめり込むほど、得られるものも多い。学生時代に名を馳(は)せた先輩たちは、4年間でどんな経験をして、それらを社会でどう生かしているのだろう。「4years.のつづき」を聞いてみよう。桐蔭学園高~慶應義塾大というアマチュア球界のエリートコースを歩み、ドラフト指名確実と言われながらサラリーマンとなった志村亮さんのストーリー最終回です。
学生考案のフェスティバル
2018年秋の東京六大学リーグ戦が開幕した9月8日、神宮球場の正面入口前に六つの模擬店が並んだ。東京六大学野球の活性化をテーマに、各大学の学生たちが考え出した「Tokyo Big6 Festival 2018」と銘打ったイベント。各校とも大学祭で出店したことのある自信作を披露した。立大は「とん平焼き」、明大は「焼き鳥」、早大は「南蛮唐揚げ」、法大は「ちゃんこ鍋」、慶大は「牛串」、東大は「冷凍みかん」。リーグ全体で六大学野球を盛り上げていこいうと、昨年から始めた試みだ。これは東京六大学連盟と各大学のOB会で立ち上げた「東京六大学野球活性化プロジェクト」が提案して実現した。
志村も設立当初から慶大の活性化プロジェクトのメンバーとして関わっている。「広告代理店の方がメンバーに多いこともあって、結構いろいろな案が出てます」。たとえばこんな案だ。中学校、高校の修学旅行のルートに神宮球場を組み込んでもらい、昼食をとりながら大学野球を体感してもらう。野球のルールがよくわからない女性ファンのために、現役の学生たちがスタンドに散って試合の進行を説明する。試合前に子どもたち向けの野球教室……。「あとは、大学の付属高、系列高校同士の対抗戦のようなものを、リーグ戦の前座としてやったらどうかとか。フレッシュリーグ(新人戦)との兼ね合いや、東大はどうするんだ、といった問題もありますけどね」
プロ野球やサッカーのJリーグなどでおなじみの、選手紹介時に顔写真とデータをオーロラビジョンに映し出すサービス。これが六大学野球に導入されたのは、2017年春からだった。「あれは非常に評判がいい。選手のデータというのは大事なことで、出身校でだいたい、その選手がどんな環境で野球をやってきたのかわかる。甲子園に出ていれば、『あのときのあいつか』となるわけです。少し残念なのは、1巡目は出身校をアナウンスするのに、2巡目からはしなくなる。ずっと言い続ければいいのにと思いますね」
リーグ活性化と東大の関係
リーグ活性化のため、東大の頑張りにも期待している。志村は慶大3年の秋、一度だけ東大に敗れている。「開幕試合で初回にランナーひとりを置いて、4番の岩本さんにカーンとホームランを打たれました。その2点に追いつけず、負けました。東大は一生懸命やってますし、決してレベルは低くない。ほかのリーグの大学には結構勝ったりしてますから。でも僕たちも必死なので、ほかの5大学との差は、なかなか縮まらないんですね」
東大は、勝つだけでリーグをとんでもなく盛り上げてしまう。社会現象にもなる。東大が志村から挙げた勝利が、リーグ通算199勝目だった。「200勝に王手」と、OBや関係者は色めき立った。東京都文京区にある合宿所には、関係者からのビールや果物箱などのお祝いが続々と届き、励ましの電報やらもたくさん来た。そして多くのファンが神宮へ応援にかけつけた。
2015年の春。東大が2010年秋から続いていた連敗を94で止めた時には、その様子が一般紙の1面で報じられた。「僕らのころの東大は、終盤で負けていると諦めてしまう感じが見受けられましたけど、最近は序盤で点を取られても、結構粘りますからね。東大が強いと確かに盛り上がりますし、いいことだと思います」と、志村は言う。
最後に大学でスポーツに取り組む選手たちへのメッセージをお願いした。
「試合の中でも日々の練習においても、危機感とか緊張感というものは必要です。それは、自分たちで意識しながらみんなで声をかけあって、つくっていくものだと思います。それが監督の仕事、というのは簡単です。監督がカリスマとして指導すれば、できることかもしれません。でもいまの大学の指導者たちは、自分がそう言わなくても選手たち自らそういうものを形づくってほしいと思ってるはずです。選手たちは互いに鼓舞しあって、そんな指導者の思いに応えていってもらいたいと思います」
(次回はフリーライター庄司信明さんが志村さんを取材しての思いをつづります)