ラグビー

早稲田の佐藤、主将の誇りと向き合って

試合前のセレモニーで感極まる佐藤(右) (撮影・斉藤健仁)

関東大学対抗戦Aグループ

11月23日@東京・秩父宮
早稲田大(5勝1敗)21-14 慶應義塾大(4勝2敗)

今年も伝統の「早慶戦」には19000人を超える観衆が集まった。4勝1敗同士の激突は、早稲田が慶應相手に激しいディフェンスから活路を見いだし、チャンスを効果的に生かして3トライを奪った。勝った早稲田が優勝争いに踏みとどまり、負けた慶應が脱落した。

試合終了間際の慶應の猛攻をしのぎきり、勝利の喜びを爆発させたエンジのジャージーの選手たちの中で、「グラウンドに立てなくて悔しい……」と、勝利を心から喜べなかった男がいる。それは今年、創部100周年アニバーサリーイヤーを迎えているチームで100代目のキャプテンを務めるFL佐藤真吾(4年、本郷)だ。この日は20番をつけて控えていたが、残念ながら出番は回ってこなかった。

身長179cm、体重93kgと、決してFWとして体は大きい方ではないが、佐藤は運動量が豊富で決定力も高く、山下大悟監督体制となった2年生のときから定位置を確保した。しかし今年、相良南海男監督が就任した後は、キャプテンながら控えに甘んじることが多くなった。それでも11月4日の帝京戦では6番をつけて先発したが、チームはディフェンスとスクラムで劣勢に回り、28-45で大敗。タックルや接点での激しいプレーでチームをリードしてほしいという首脳陣の期待に応えられなかった。

佐藤は「帝京戦のパフォーマンスが悪かったので仕方ないです。タックルの判断やマインドのところで課題がありました」と反省した。早慶戦には後輩の柴田徹(3年、桐蔭学園)が先発に回った。早慶戦のあと、相良監督は「佐藤を出しづらい展開になってしまった。よくはなってきてるんですが、パフォーマンスにムラがあります。心苦しいですが、ほかの選手の方が安定してます」と、キャプテンを先発で起用しない胸の内を明かしてくれた。

カリスマ性のあった山下前監督はトップダウンのスタイルで、Aチームと2軍にあたるジュニアチームをハッキリと分けて指導していたという。だが、相良新監督はジュニア選手権で活躍した選手がいればすぐにAチームで試すといった、最後まで選手間で競い合わせるスタイルを取っている。そのため、キャプテンであっても試合で結果を出さないとレギュラーの座はない。

佐藤は小学校まではサッカーや水泳をやっており、本郷中1年のときはバトミントン部だった。体育祭でたまたまプレースキックを蹴ったら成功。「おもしろい!」と、中2からラグビー部の門を叩いた。本郷高は都内では強豪で、7人制ラグビーでは全国大会に出場できたが、花園には行けなかった。「小さい頃から早稲田があこがれで、中学受験では早稲田の系列校に落ちたほどだったので」と、センター試験と競技力調査書で合否を決める「競技歴方式」で早稲田のスポーツ科学部に合格した。

ラグビー部で最上級生になるとき、山下前監督から「監督は変わるかもしれないけど、キャプテンになってほしい」と電話があった。そのとき佐藤は自分に高校代表やユース代表の経験がないため、悩んだという。キャプテンになったあとも「100周年を迎えて注目が大きいのに、僕なんかがやってもいいのか……」と何度も思った。それでも「監督が新しくなっても、99代目でも、100代目でもキャプテンとしてやることは変わらない。チームへの貢献をやりきるだけ」と決意を固め、練習でも試合でも先頭に立ち続けている。

9月4日の100周年イベント 新ジャージー発表会に出席した佐藤(左) (撮影・斉藤健仁)

残り少ないラグビー人生、4年生として、キャプテンとしてスタメンで出る

帝京には負けたが、先日の早慶戦に勝利し、現在のチーム状態は上向きだ。佐藤キャプテンに昨年との違いを聞くと、首脳陣が選手の意見を聞いてくれるようになったことだと感じているという。今年の早稲田は「Moving」というスローガンを掲げたが、佐藤キャプテンを中心とした4年生で決めた。「Moving」にはボールも人も動くラグビーをすること、見ている人を感動させるラグビーをすること、部員それぞれが主体性を持って動き続けようという三つの意図がある。

ほかにも、前週に選手が練習内容をどう感じたかという意見書を提出できるようになり、毎週、練習メニューを修正してもらっているという。また昨年まではAチームはコンディション調整のため、ジュニア選手権やC戦、D戦を見に行くことはほとんどなかった。だが今年は少しくらいコンディショニングが整わなくても、部員全員で観戦に行くのを徹底した。佐藤は「今年はチームのまとまり方が違う」と感じている。

早慶戦で大活躍したゲームリーダーのSO岸岡智樹(3年、東海大仰星)に佐藤キャプテンについて聞くと、「言葉だけでなくプレーでも引っ張ることができて、頼りがいがある。(12月2日の)早明戦ではもっと4年生が試合に出てくると思います」と期待を寄せた。実は早慶戦では、早稲田の先発は15人中2人しか4年生がいなかった。佐藤は「もしかしたら、歴代で一番4年生が少なかったかも。でも下から這い上がってきた選手が活躍するのが、早稲田の強さだと思ってます。今後、どのくらいチャンスがあるかわからないですけど、4年生には一つひとつのチャンスをものにして体を張ってほしい」と、自分にも言い聞かせるように語った。

大学卒業後、佐藤はラグビーに区切りをつけて総合商社で働く。どんなに多くても、高いレベルでのラグビーは残り5試合となった。「早明戦、大学選手権と残り少なくなりましたが、チームとしてはディフェンスで勝つという戦い方の精度を高くしていくのが大事です。個人としてはキャプテンとしてスタメンで出るのが一番大事なので、努力していきたいです」

試合に出る出られない関係なく、佐藤が前を向き、最大限の準備とチャレンジをし続ける姿勢を見せるのが、チームにとって何よりものプラスになる。そして試合に出たら「Moving」の一番の体現者になる覚悟はできている。大学選手権の決勝は来年1月12日。佐藤のエンジの誇り、4年生の意地、キャプテンとしてのプライドが問われる戦いは続いていく。

常に動き回るのがFL佐藤の真骨頂だ (撮影・斉藤健仁)

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