水泳

連載:私の4years.

幸せだった水泳人生の幕切れ 田坂友暁・最終回

日大の室内プールもまた、田坂さんの青春の場所だ

全国には20万人の大学生アスリートがいます。彼ら、彼女らは周りで支えてくれる人と力を合わせ、思い思いの努力を重ねています。人知れずそんな4年間をすごした方々に、当時を振り返っていただく「私の4years.」。元日本大学水泳部の田坂友暁さん(38)の青春、最終回です。田坂さんは世界大会の出場をかけ、4年生の日本選手権で一世一代の挑戦に出ましたが、実りませんでした。それでもまだ、ラストシーズンは続きます。

仲間を求めて日大の寮へ

日本選手権は終わったが、秋にはインカレがある。大学生にとって最後のステージだ。ただ、すべてをかけた挑戦で夢破れ、私の中で張り詰めていた糸が切れていたのは事実だった。当時、日大の寮に入らずセントラルスポーツで練習していた選手も、秋のインカレ前の1カ月間だけは寮で生活し、日大で練習してチームの団結力を高めるという決まりがあった。だがこの年の私は、6月の日本選手権が終わって間もなく寮に入ることにした。

7年間を過ごしたセントラルスポーツのプール。「ここには私のすべてが詰まってます」と田坂さん

理由はふたつあった。ひとつは世界を目指すセントラルスポーツの集団の中に、水泳人生の幕引きに向かう自分がいてはいけないという思い。もうひとつは、正直、ひとりでいることに疲れていたからだった。こちらの方が、理由としては大きかった。セントラルでは、私の同級生は女子選手がひとりだけ。その選手も練習チームは別だったし、セントラルの寮にも入っていなかった。

まわりは年上と年下ばかりで気を遣う。学生では最年長なので、自然とみんなを引っ張る立場になる。しかし6月の日本選手権の結果で引退を決めていたし、手本になるような気力はなかった。そういう葛藤や悩みを相談できる仲間もいなかった。正直に言えば、それがしんどかったし、寂しかった。自分のわがままではあったが、セントラルの鈴木陽二コーチも、日大サイドも、快く私の申し出を受け入れてくれた。

セントラルスポーツの寮の食堂。田坂さんは4年生のとき、ここで泳ぎを徹底的に研究した

4年目にして、本当の意味で日大水泳部員としての生活が始まった。当時の上下関係を振り返ると、いいとこ取りみたいなところもあったが、本当に楽しかった。同級生たちもこんな自分を受け入れてくれたし、後輩たちも慕ってくれていたと信じている。

日大のみんながいてくれたおかげで、気持ちは切れていながらも、最後のインカレで最低限の結果は残せたと思う。50m自由形と100mバタフライに出場し、それぞれ7位と8位。50m自由形では予選を2位で通過しただけに、期待をさせておきながら申し訳ない気持ちもあったが、一応2種目で得点を獲得できた。メドレーリレーでは4年連続でバタフライを泳がせてもらった。最後に過ごした日大の寮での時間があったからこそ、私は水泳人生を本当に幸せな状態で終えられた。

水泳も遊びも全力だった

感謝している人を挙げれば、きりがない。いまスポーツライターという仕事ができているのも、日大、そしてセントラルスポーツの先輩方のおかげだ。そんな人たちに、私は何を返せばいいのだろう。答えはいまも見つかっていないが、そんなときに思い出すのは、ほとんどの先輩たちが口にしていた言葉だ。

「自分がしてもらったことを、後輩たちにしてやれ。それが俺たちに対する恩返しだ」

日大の後輩たちに、セントラルスポーツの後輩たちに。正直、あまり目に見えるような恩返しはできていないようにも思う。それでも彼らの見本、手本であり続けたいと思うし、彼らがもし悩んだり、迷ったり、困ったりして私を頼ってきたときは、全力で応えたい。その気持ちは、いまもある。

いまの私をつくり上げているのは、日大で、セントラルスポーツで過ごした4年間であることは間違いない。やんちゃをしたこともあるし、道を誤ることもあった。そんなとき、必ず誰かが厳しくも優しく、私を正してくれた。

日大水泳部の寮には「フジヤマのトビウオ」古橋廣之進氏の「泳心一路」という言葉が

自分で言うのも恥ずかしいが、いろんな人たちが私を助けてくれたのは、私が常に全力だったからだと思う。水泳にも遊びにも全力だったからこそ、周りの人たちも全力で私とぶつかってきてくれた。大人になったいま、全力で何かにぶつかることは少なくなってしまったが、それでも仕事に対して全力で立ち向かう気持ちを忘れたことはない。そんな“青さ”を持ち続けられるのも、日大で過ごした全力の4years.があったからだ。

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