サッカー

連載:サッカー応援団長・岩政大樹コラム

岩政大樹「心配性だから変化させる」、成功体験に引っ張られることなく新しい自分へ

岩政さん(15番)は鹿島での2シーズン目を終えた際、「体の動かし方改革」に着手した(撮影・朝日新聞社)

自分の性格を一番色濃く表す言葉は「心配性」だと思っています。常日頃、あらゆることにまず「心配」から入ってしまう心がある。ただ、「不安」と言うより「心配」です。だから、ネガティブなままで終わらず、そこから「さあどうしようか」と考える。それが私なのだと認識してきました。

「心配」から入るから色々と怖い。ただこれ、悪くないな、と思っています。現役の頃は、怖いからこそ最善の準備をしなければ試合に向かえなかったし、怖いからこそ最適なポジショニングで相手の攻撃を待ち構えなければ落ち着いていられなかった。今も日々、何かに心配になりながら、やれることを最大限やって1日を終えないと気がすまない。そんな疲れる毎日を送っています。

島で育ち、勝つためのサッカーを悟る 元日本代表・岩政大樹さん1

鹿島2年目を終え、改革に着手

最近、私はこの性格のおかげで生かせてもらっている、とさえ思うようになりました。というのも、この性格のおかげで、“安住”の空気を感じると、何か変化をさせなくてはいけないのではないか、と心が訴えてくるのです。それによって、いつも自分や環境を変化させることに不安より切迫感が勝ってくれて、周りから「まだ早いんじゃないか」と言われるような選択をすることができました。

例えば、プロに入って2年目のシーズンが終わった頃のことです。私は2年目にレギュラーとして1年間試合に出続けることができて、翌年からは「鹿島の3番」を着けることになっていました。はたから見れば順風満帆の時を迎えていたと思います。しかし、私の心は何か落ち着かなかった。このままだと少し先に自分が行き詰まってしまうような感覚を覚えたのです。そこで、「体の動かし方改革」と自分で名付けた改造を始めました。体の動かし方について学び、勉強し、様々な競技を参考にしながら“新しい自分”を作っていきました。

周囲からは反対もあったと記憶しています。変化には常にリスクがついて回りますから、「いい流れできている時なのだからまだ早いんじゃないか」。そんな声もありました。しかし、自分の心に従って始めたその改革のおかげで、その後、私はたくさんの大きなものを得ることができました。

鹿島を離れる時の決断、タイを離れる時の決断、引退を決めた時も同様です。私は周囲から「まだ早いんじゃないか」と言われながら、少し早めの決断をして人生を作ってきました。それに対し、その度に色々と理由をつけて話してきましたが、率直なところは、ただ単に自分の心配性な性格が心に訴えかけてきているだけのようにも思います。

“変わること”ができなくなった時の弊害

それをなぜここでお伝えしているかと言うと、「“変わること”ができなくなること」に対する“心配”を40歳手前のおじさんになってよく感じるからです。今はまだこの心配性の性格のおかげで“変わること”をむしろ望んで、様々な選択ができています。しかし、いつか「これまでの自分」にこだわりができてしまい、変われなくなることもあるのかもしれないな、と。そのときには素直に、若い皆さんに頼れる自分でありたいな、と思っています。

現役を終え、指導者や解説者になった今も、“変わること”を楽しんでいる(撮影・松永早弥香)

そして、若い皆さんにも「“変わること”ができなくなること」は、歳をとるにつれて次第に、自分では自覚することなく起こってしまうことを知っておいてほしいと思います。「自分は大体こういうもの」。そんな認識は知らず知らずの内に20代の頃にできあがると聞いたことがあります。大人としてそれは正常なことなのだと思いますが、それにより失うこともあるということに自覚をしておくことはとても大切だと思います。

“私はこの性格のおかげで生かせてもらっている”と書きました。今はまだ、私は“変わること”をむしろ好み、楽しんでいられています。しかし、様々な人、様々な出来事を見ると、それは当たり前ではないのだなと感じることがあります。特に成功体験が伴うと、さらに“変わること”は難しさを増すのでしょう。私もサッカー選手としては、曲がりなりにも自分の考えもしないところまでいくことができましたから、その成功体験に引っ張られそうになる瞬間は常にあります。しかし、指導者や解説者として、それではいけないと思っています。

そのために必要なのはおそらく、幅の広い学びなのだと思います。今までの自分や、これまでのやり方、見てきた世界が「それが全て」とならないために、深さだけでなく幅のある知識や経験を常に求めていなくては。そんなことを考えた今月の様々でした。

サッカー応援団長・岩政大樹コラム

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