世界の走りを体感 驚きばかりの超ハードなブラインドマラソン合宿をリポート
今週の「M高史の陸上まるかじり」は、日本ブランドマラソン協会強化の合宿のお話です。M高史がライブ配信の実況を務めさせていただきましたホクレン・ディスタンスチャレンジ(DC)2023では、第3戦・網走大会と第4戦・北見大会でブラインドT11〜T13の男女5000mも行われました。
男子は堀越信司選手(NTT西日本)、熊谷豊選手(三井ダイレクト損保)、高井俊治選手(三好市陸協)の3選手。女子は道下美里選手(三井住友海上)、藤井由美子選手(びわこタイマーズ)、西村千香選手(岸和田健康クラブ)の3選手が出場。以前、4years.で取材させていただいた堀越選手や東京パラリンピック金メダリストでマラソン世界記録保持者の道下選手もそろい、豪華メンバーとなりました。
伴走経験も豊富で今回合宿に帯同されていた中田崇志選手と山口遥選手にも、4years.で以前取材させていただいたことがあります。あらためてご縁に感謝です。
さて、ブラインドマラソンは視覚障がいの程度によってクラス分けがあります。
T11 全盲 伴走者とともに走る
T12 弱視 伴走者がいても、単独走でもどちらでもよい
T13 弱視 単独走(伴走者をつけてはいけない)
おおまかに分けると上記のようになります。日本ブラインドマラソン協会のWEBサイトに国際規則が詳細に記載されています。
今回出場した選手は全員T12の選手でした。男子は伴走者なし、女子は伴走者ありのメンバーがそろいました。
男子のペースメーカーは、中田崇志さん(関東RC)と山領駿さん(福岡陸協)が担当。女子では、道下選手の伴走については、網走大会では河口恵さん(三井住友海上)、北見大会では青山由佳さん(相模原市RC)が務められました。藤井選手は武田浩志さん(びわこタイマーズ)が、西村選手は三野貴文さん(森野AC)がそれぞれ伴走されました。
ホクレンDC参戦後に40km走とインターバル
例年、北海道北見市を拠点に1週間ほどブラインドマラソン合宿が行われます。
北見から比較的近いホクレンDC第3戦・網走大会の5000mに出場し、翌日に40km走、さらに翌日にはインターバルトレーニングを実施。そして、中1日のリカバリーを挟んで第4戦・北見大会で5000mに出場し、翌日に42km走、さらに翌日にインターバルを行うという超ハードなスケジュールです。
ホクレンDCではライブ配信が行われましたが、ブラインド種目の解説は、日本ブラインドマラソン協会の安田享平・強化委員長がお務めになられました。場内MCは山口遥選手(AC.KITA)が担当。MGC出場資格を持ち、実業団選手顔負けの走力を誇る山口選手は、伴走者としてブラインド選手のサポートもされています。場内MCの後、自身のレースにも出場するタフさも発揮されていました。
ジェットコースターのようなコースで42km
北見大会の翌日、合宿のヤマ場となる42km走に伺わせていただきました。1周1.5km、スタートしてから下り坂が続き、後半は急な上り坂が続くジェットコースターのようなタフなコースを28周します!
皆さんのお邪魔にならないように、せめて20kmくらいは並走させていただきたいと思って体験取材をさせていただきました。走力がそれぞれ違うため、終了時間を逆算して時間差でスタートしました。
まずは女子選手がスタートし、数分経ってから男子選手がスタート。M高史は全選手と1周以上は並走しようと、女子選手と一緒にスタートしました。
前半は道下選手と並走。小気味良いピッチを淡々と刻んでいきます。10km手前で、近づいてきた堀越選手と合流。5000mでも14分48秒の記録を持ち、東京パラリンピックではマラソン銅メダルを獲得した堀越選手。特に、上り坂では体幹も安定してグイグイ上っていきます。もし箱根駅伝を走るなら5区! と思うくらいに上り坂もハイペースで押し切ります。
20km手前で、今度は高井俊治選手、熊谷豊選手、山口遥選手の集団が来たので、しばらくつかせていただきました。
気づけば20kmを過ぎ、せめて30kmまではいかないと失礼だなと思い、無事に30kmを走破!
すると、まだご一緒していなかった西村選手と合流。さらに藤井選手とも1周しまして、気づけば36kmまできました。あと4周したら42kmだなと思っていたところ、後方から道下選手がスタート時よりもはるかに速いペースで近づいてきました。しかも、道下選手もちょうど残り4周です。
川内優輝選手の座右の銘である「現状打破!」を日頃から唱えさせていただいているのに、ここでやめたら口だけになってしまうし、選手の皆さんにも申し訳ないと思って、そこから道下選手に合流させていただきました。
世界記録保持者・道下美里選手の空気感
東京パラリンピック金メダル、マラソン世界記録保持者の道下選手。ゲストランナーでご一緒させていただいたことがあり、普段は笑顔で明るく元気いっぱいの素敵な方です。ただ、練習中に見せる普段とは別人のような気迫と集中力、圧倒的なオーラは凄まじかったです! 人生を懸けてマラソンを走っているのが空気感からも伝わってきました。
特に、下り坂のスピードがとにかくすごいんです! 40kmを走ってもなお、下り坂では1km3分40秒くらいまでペースが上がります。前日に走った5000mのレースペースよりも速いのでは!? というほどのペースアップでした。
先ほど、堀越選手が箱根5区を走ったら面白いと書きましたが、道下選手は6区の山下りを走っても面白い、と思うほどスピードに乗った走りでした。世界一の走りを体験させていただき、感動でした。
そして、42km走を無事に走破! 終わった直後、道下選手はいつもの「美里スマイル」で超笑顔! なんという切り替えの早さ(笑)。「Mさんがいたのがわかっていたので、引き離そうとペースを上げました(笑)。おかげで、いい練習ができました!」と優しい、うれしい言葉をかけていただきました(笑)
声かけ、走力、技術…… 伴走者のすごみ
選手の皆さんはもちろん、伴走者の皆さんも相当な現状打破! だと感じました。
まず、選手の目となり、小さな段差や左右に曲がるところなどを知らせる役割が求められます。車の通行量はかなり少なかったですが、時々通るので、そのたびに声かけ。また、上り下りがあることや、あと何メートルで上り坂が終わるのか、給水の合図や給水の渡し方まで、案内は多岐にわたります。ナビゲーションの役目だけでなく、時には選手を鼓舞し、走りやフォームのアドバイスも伝えます。それをハイペースでこなすのですから、驚きです。走力、伴走技術、気遣いといったことが求められます。
僕も過去に伴走経験はありますが、だからこそ、すごみを感じました。もし次回、合宿に伺わせていただける機会があれば、今度は伴走でも少しお役に立てたらうれしいです。
練習後は昼食もご一緒しました。レバーの量もボリューミー! 牛乳ではなく低脂肪乳! ご飯の横に計量器があって、選手各自でお米の量を調整します。栄養士の方がアドバイスした食事メニューになっているようです。
夏場の距離走、しかも42km走というと、内臓が疲れて食事がなかなか進まない場合もあると思いますが、合宿に参加されている選手の皆さん、伴走者の皆さんはしっかり食事もとられていました。しっかり走って、しっかり栄養をとってリカバリー。これが強さの秘訣なんですね!
世界一になるため 練習量と質に衝撃
42kmを走り終わり、自分の中で「今日はよくやった! 現状打破した!」と思っていたのですが、安田強化委員長は昼食後のミーティングで「午前中はお疲れ様でした。午後はゆっくり120分行きましょう」とお話されたのです! 「え!? 午前中42km走ったのに、午後も2時間走るの!?」と衝撃でした(笑)。
世界一になるため、世界で戦うため、量・質ともにすさまじいトレーニング。僕は午後から千歳方面に移動する日だったため、120分JOGはご一緒できず……。ちょっとホッとしましたが(笑)。
さらに翌日、インターバル練習をして合宿を終えたそうです。やはり世界で戦うこと、勝つことってすごいことなんだと、あらためて勉強させていただきました。
選手の皆さん、伴走者の皆さん、スタッフの皆さん、ありがとうございました!