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連載:4years.のつづき

「プロチームがあって良かった」と思える未来を おこしやす京都AC社長・添田隆司4

添田さん(左)は25歳でおこしやす京都AC代表取締役社長に就任した(写真提供・全ておこしやす京都AC)

今回の連載「4years.のつづき」は、東京大学卒業後にJ3だった藤枝MYFCに進み、史上2人目の東大卒Jリーガーとなった添田隆司さん(27)です。2017年に現役を引退し、翌18年にスポーツXの取締役と、関西リーグ1部に所属するおこしやす京都ACの代表取締役社長に就任しました。4回連載の最終回はおこしやす京都ACの社長として描く未来についてです。

クラブへの最大の貢献を考え、引退を決断 おこしやす京都AC社長・添田隆司3
塾もいかず現役で東大へ、入学式で東大初のJリーガーになると決意した 久木田紳吾1

世界40カ国以上をめぐり、スポーツの可能性を実感

17年12月に現役を引退してから、添田さんはアミティエSC京都(現・おこしやす京都AC)の社員として働き、事業計画や経営企画の業務を担った。同時にスポーツXにも社員として参画。スポーツXは藤枝MYFCを創設した小山淳さんたちが藤枝MYFCの経営権を静岡の地元企業に譲渡した後、17年10月に藤枝MYFCの創設とJ参入、黒字化を果たした幹部メンバーとともに立ち上げた会社だ。小山さんが代表取締役社長となり、スポーツを通じて地域・日本・世界を豊かに、笑顔の咲き誇る幸せな未来をつくることを理念に掲げ、国内外へのプロスポーツクラブ多店舗展開とその基盤となるプロスポーツクラブ経営人材の育成を目指している。

翌18年には視察と商談のため、添田さんは小山さんとともにヨーロッパやアジア、アフリカ、東南アジアなど世界40カ国以上をめぐった。スポーツXが目指すべき姿を求めて様々なスポーツクラブのアカデミーを訪れ、多くのカタール代表選手を輩出しているアスパイア・アカデミーにも学んだ。

ケニアで2番目に大きなスラムとして知られているコロゴチョスラムにあるアカデミーは、特に印象に残っている。このアカデミーは、毎年オーストリアで開催されるFCバルセロナなど超名門クラブも参加実績のあるドナウアウエンカップで、並みいるヨーロッパの強豪チームを抑えて優勝している。アカデミーの活動のおかげで、スラム内の犯罪率も低下した。「どのような形でどのくらいの予算で運営されているのか、どのような思いで活動されているのか話をうかがいながら、将来的には自分もそうした面でも力になれたらいいなと思いました」と添田さんは言う。

添田さん(左から2人目)はスポーツXの小山淳代表取締役社長(右から2人目)と世界をめぐり、スポーツの可能性を実感した(写真はドミニカにて)

またこの時の商談をきっかけにして、スポーツXは19年、ミャンマーのプロサッカーリーグであるミャンマーナショナルリーグとともに、サッカー選手の育成と同国のミャンマー代表チームの強化を目指した合弁会社を設立。ガーナでは1部クラブを経営し、スポーツXは現在、同国選手を続々と日本に移籍させている。添田さんは各国をめぐりながら新たな事業が生まれる場に立ち会い、改めてスポーツの可能性を感じることができた。

人々が笑顔になれるクラブをつくる

18年4月、アミティエSC京都はおこしやす京都ACへと名前を変更。添田さんは同年7月にスポーツXの取締役に、9月にはおこしやす京都ACの取締役に就任した。また19年におこしやす京都ACはスポーツXの子会社になっている。

19年を前にして添田さんの前には、スポーツXの活動を続けるか、おこしやす京都ACの代表取締役社長になるか、2つの選択肢があった。胸にあったのは選手を引退した時と同じ「この京都を本気で上に上げたい」という思い。責任をもって、本気になって取り組む人が必要だと考え、添田さんはおこしやす京都ACの代表取締役社長になる決意を固めた。当時25歳。国内のプロサッカークラブでは最年少での就任だった。

21年現在、おこしやす京都ACはJFL昇格後、最短2年でJリーグ加盟を目指している。添田さんはその結果だけではなく、過程を大事にしている。

「プロスポーツが日本において、事業としてちゃんと成り立っていく必要があると思うんです。例えばJリーグのクラブを見てみると、親会社からの資金援助が下支えになっています。事業として継続していく危うさはありますよね。でも事業としてまわるようなプロサッカークラブがあれば、世の中がちょっとだけ豊かになるんじゃないかなと思うんです。それは、スポーツを通じていろんな方々が笑顔になることにつながるんじゃないかな。そこにつながるビジネスモデルをつくっていきたいです」

スポーツを通じて人と企業と地域をつないでいく(写真は門川大作京都市長表敬、左から2人目が添田さん)

スポーツを通じて人と企業と地域をつなぎ、人々が笑顔になれるクラブをつくる。おこしやす京都ACを成功させることで、そのクラブモデルを他の地域にも展開する。その一方で、他の地域で生まれたモデルをおこしやす京都ACにも用いてどんどんブラッシュアップしていく。そうした取り組みを通じて、スポーツ全体の価値を高めることが添田さんの思い描く未来だ。「日常的にサッカーを見ていない人にも、『プロサッカーチームがあって良かったな』と思ってもらえるような形にしていかないといけない。そういう意味では、ゴールが100だとしたらまだ0.5くらいしか進んでいません。でも社長になってからまだ2くらいしか見えていなかったのが、20~30くらいまで先が見えるようになりました。急ぎながらも着実に進んでいるところです」。添田さんは笑顔で明かした。

勉強もサッカーも頑張る、という選択肢も

新型コロナウイルスの影響をスポーツは大きく受けている。だが中長期的に見るとスポーツの価値が見直され、クラブにとっても永続的な運営を考え直すきっかけになっていると添田さんは言う。「スポーツはいろんな人がフラットにつながる場所です。そうしたスポーツならではの価値を生かし、どうやって事業にスポーツを活用していくのか。広告や協賛以外のところになかなか踏み出していなかったクラブにとっては、新たなチャンスとも言えるでしょう」。スポーツXの元にはJリーグのクラブチームからも経営支援の打診が届いているという。

またプロサッカークラブに関わるひとりとして、自身の経験から目指していることがある。

「進学校にいると『なんでお前、サッカーをやっているんだ?』っていう空気をちょっと感じましたし、逆にクラブチームにいると『なんで東大目指すの?』と指導者から言われることもありました。『いや、東大に行きたいから行くんですよ』と答えていましたけど、勉強側とサッカー側、お互いがお互いに理解がないなということをすごく感じました」

小学生の時から全国屈指の進学校で学び、クラブチームでサッカーをしてきた添田さんの周りは、必ずしも理解者ばかりではなかった。かつての自分のように、様々な環境でサッカーと向き合っている人がいるからこそ、純粋に誰もが目指せる場所をつくれないか。そんな場所に、おこしやす京都ACがなれればと考えている。

京大初のプロ野球選手・田中英祐さんからも刺激を受け

東大4年生の時に出席した三井物産の内定式で、当時京都大学生だった田中英祐さんとも知り合った。その後、田中さんも同じく三井物産の内定を断り、プロ野球・千葉ロッテマリーンズにドラフト2位で入団。添田さんが藤枝MYFCへの入団を決めた時、田中さんからは「頑張ってね」というメッセージを受け取った。時は流れ17年、奇しくも添田さんと田中さんはほぼ同じタイミングで引退している。

田中さんが三井物産に入社してから一度、添田さんと田中さんはゆっくり2人で話をしたそうだ。「僕も将来的には勉強もサッカーもできるような場所をつくりたいと思っていましたし、田中さんから色々と智恵をいただいて、一緒になにかできたらいいなと思っています」。また「初の東大卒Jリーガー」である久木田紳吾さんとも、久木田さんが19年に引退してから交流を深めている。こうした縁からも、新しい可能性を探っている。

添田さんはスポーツをすること・触れることが誰にとってもより身近なものになり、スポーツを通じて笑顔になれる未来を目指している

今、目の前のことに全力を注ぐ

添田さんは学生時代、経済学の原書を読みあさってきた。その知識がベースとなり、今の仕事にも生きているという。だからこそ学生には、今の内に自分の軸になるような学びを蓄えてほしいと話す。「今はネット社会ですから単発的な情報がドンドン世に出ていて、いろんな媒体からなんとなく説得力がある情報が発信されています。でも本当に自分の軸になるようなことって、直接人から聞いた話や自分の体験、本とか新聞、雑誌、特に名著と呼ばれている原書から自分の頭で考え抜いた上で得られる学びだろうし、そういうものが今の自分の血肉になっているんじゃないかなと思うんです」

添田さんはサッカー人生の最後のステージと考え、大学4年間、サッカーに情熱を注いでいた。Jリーガーを目指した結果、その後の道が開けたわけではない。しかしそれだけの努力をしてきたからこそ、Jリーガーにつながる縁に恵まれた。「世の中の流れに逆行しているかもしれませんが」と前置きした上で、添田さんは言う。

「今、目の前にあることに全力で取り組んで、いろんなことを考えてチャレンジすることは大事なんじゃないかな。世の中にあまり流されずに、取り組んでいってほしいです。それは将来、自分を助けてくれると思うんで。正直、学生と社会人の違いは社会経験があるくらいだと思うんですよ。物事を遂行する能力が高い学生もいますから。ちゃんと真剣に向き合う。その経験は決して無駄になりません」

4years.のつづき

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